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2017年税務リスクと税務係争に関する調査 シリーズ2
BEPS対抗策から生じる税務リスク

TPC調査

すでに進んでいる税源浸食や利益移転(BEPS)への対抗策として、G20や経済協力開発機構(OECD)が行ったグローバルな取組みは、国際的な税務情勢のあり方を根本的に変え、企業に対して新たなリスクを数多く引き起こしました。長年の定義、規則、実務が変更され、透明性や開示に関する措置が急増したことで、企業の税務コンプライアンス、レポート機能、税務調査、係争、風評リスクは、重大な影響を受けることになります。

本調査は2017年1月から2月にかけて、英語、スペイン語、中国語、日本語で実施され、69カ国、17業界以上の税務・財務部門の幹部(901名)が回答されました。

BEPS対抗策から生じる税務リスク

OECDが2015年10月にBEPS最終報告書を公表し、BEPSプロジェクトが理論的段階から現実世界へと移行されつつある中、多くの企業はまだBEPS時代を現実のものとは認識できない状態にありますが、中には明確になった領域もあります(特にBEPSの行動計画13に基づき新たに導入された、国別報告書(CbCR)に関わる義務等)。 一方で、依然として、多くの企業にとっては、導入後どのように展開されていくかについて先行きの不透明感が拭えません。

一部の行動計画についてOECDがまだフォローアップ作業(集団投資ファンド以外の投資ファンドへの条約恩典付与、恒久的施設(PE)への利益の帰属等)を継続中であること、各国の導入スピードに差があることなどから、より透明性を増し法規制が明確になるまでは、対応計画を独自の方法で進められない企業があることは事実です。

調査結果からは、企業が、自身に課せられる報告義務による負担は今後さらに増し続けると予測していることがわかります。 BEPSプロジェクトに伴い、これまでになく多くの開示・報告手段が導入されたにもかかわらず、回答者の55%近くがグローバルレベルの開示・報告・透明性に対する要求事項が今後2年間で大幅に拡大するだろうと述べ ています。 また40%は、ある程度の拡大はあるとし、現状のままと回答したのはわずか3%でした。 大企業のうち、要求事項が大幅に拡大されるだろうと回答したのは69%、ある程度拡大されるだろうと回答したのは30%でした。日本企業に関してもほぼ同様の結果となっています。

「企業はまだ、BEPSによる影響についてすべてを理解しようと努めています。BEPSの実施には現在も多くの作業が残っていますが、実施後どのような結果になるかを厳密に把握できている企業は少なく、静観しながら様子を伺っている企業もみられます」

̶ ピーター・グリフィン EY グローバル・米国移転価格リーダー

BEPSへの準備

企業は、BEPS導入に向けた準備に膨大な時間、金額、資源を投入してきました。 また、従業員、作業場所、業務内容、運営モデル、サプライチェーンネットワ-ク、ITシステム等を含む社内の組織をくまなく評価してきました。 めまぐるしく変化する法規制や行政の動向に遅れをとらないように、また各国間の法規制に生じるあらゆる矛盾を認識するために、多くの企業は進出国のBEPS実施に向けた取組みを監視するプロトコルを策定しています。

多くの企業にとって、国別報告書(CbCR)の作成は重要な課題です。 それは、新たな提出義務であるだけでなく、2016年1月1日以降開始会計年度についてCbCRの提出を求める法規制を、多くの国がすでに導入しているからです。 大抵の場合、CbCRの作成には複数の事業部門の代表者からの協力が必要となります。 これには、税務部門、財務部門、IT部門等、企業のデータ収集プロセスを審査して、企業がグローバルレベルで一貫したデータを提示できるかどうかを決定する役割や、現行のITや報告機能のインフラストラクチャーを評価してシス テム間の潜在的ギャップを特定する役割、持続可能な報告機能に関する計画を策定する役割などを果たす部門が含まれます。

当然ながら、多くの大企業はCbCRの提出義務を順守するために必要なツールを整備しています。 大企業の72%が、CbCRのガイドラインを収集し、これを順守するための報告システムを有しているとし、その一方で、20%はそういったシステムを有していないと回答しています。 全調査対象のうち、53%が必要な報告システムを有していると回答し、31%近くが有していないと回答しています。 業界別では、準備態勢のレベルが最も高かったのは、ヘルスケア業界の企業(67%)でした。

日本企業において、56%が報告システムを有していると回答し、20%は有していないと回答しています。

「BEPS防止ルールの順守は同様に、中規模企業向け市場の問題でもあります」とEY 国際税務リーダーのアレックス・ポストマ氏は述べ ています。「国境を越えて事業に従事するあらゆる企業が、現行・将来の要求事項を順守するために注意を払い、準備態勢をさらに改善する必要があります」

興味深いのは、CbCRに必要な情報を収集し、提供するために人材の追加が必要であると回答したのは調査回答者のわずか36%(大企業のみの場合は38%)だったことです。 日本企業でも、38%という回答です。 このことから、多くの企業が、CbCRのために労働力を要する手法を導入するのではなく、持続可能な自動報告システムに投資している又は国別収集を外部委託していることが伺えます。

行く手に待ち受けているもの

政府がBEPS最終勧告を実施し続ける中で、企業が今後も対処すべき多くの仕事を抱えていることがわかります。 回答者の42%が、BEPS実施に伴う最も大きな課題は「国別(CbC)報告書、マスターファイル、ローカルファイル用のデータの入手可能性と品質」であると予測しています (大企業の場合、この数値は57%に上ります)。 日本企業も回答者の73%が課題として挙げており、新しい文書化制度への関心の高さが伺われます。 また、全回答者の27%が一定の国でのBEPS行動計画の実施により起こり得る係争が最大の課題だと述べています(大企業の場合、この数値は40%近くまで増加します)。

全回答者の25%(大企業の32%)が、多くの国におけるBEPS行動計画の実施状況を追跡し管理することが課題であると回答しました。 続いて、24%(大企業の29%)が、新しい方針と規則に確実に従うため適切な技術を持った人材を得ること、そして23%(大企業の30%)が、事業部門と税務部門におけるグローバルなストラクチャーについて、BEPS行動計画の項目に沿うように整合を取ることであると回答しています。

日本企業の回答で特筆すべき点は、「新しい方針と規則に確実に従うため適切な技術を持った人材を得ること」を課題としてあげた企業が全体の73%にも上ったことです。 社内だけではなく、外部人材の有効活用も検討する必要があります。

BEPSは単なる税務問題ではない

BEPS改革が企業の税務部門を超えて拡大していると言っても過言ではありません。 実際に、世界中の政府が実施しているBEPS勧告は、税務コンプライアンスだけではなく、企業の事業活動にも影響を与えています。 進出先の国において、必要な再構築や再編成に向けて事業モデルを見直し、戦略的計画を立てている企業は、以下の項目を含む広範な要因を考慮する必要があります:

  • 課税の影響
  • 市場と競争の動向
  • 知的財産戦略
  • 法人のストラクチャー
  • 税務政策立案者や税務行政官との関係
  • 買収や処分に向けた計画

今後2年間でBEPSの実施によって、税務部門以外のどの部門が最も大きな影響を受けるかという質問に対し、調査回答者による回答のトップ5は会計(71%)、財務(62%)、資産管理(32%)、法務(30%)、IT(28%)でした。 大企業の場合も同様に、会計がトップ(72%)、続いて財務(60%)、資産管理(39%)、IT(31%)、法務(29%)となりました。


結論

G20/OECDのBEPSプロジェクトは、過去100年間における国際税制の最も大幅な変更を意味していると言っても過言ではないでしょう。 BEPS最終勧告は、税法規の単なる技術的な書き直しを意味するものではなく、また企業の税務戦略だけに影響を与えるものでもありません。 世界の経済大国の政治に関わる最優先課題に掲げられたBEPSプロジェクトのゴールは、国際的な法人税制の枠組みを変えるだけでなく、企業の姿勢そのものを変えることになりました。 世界中の政府が実施するBEPS改革によって、様々な業界におけるビジネスモデル、産業や主要企業が再編され、また税務に関する決定事項が自身の評判、ブランド、内部及び外部のステークホルダーとのコミニュケーションにどのように影響を与えるかについて再考するよう企業に促す結果となりました。

企業にとって、2015年10月のBEPS最終勧告のリリースは、BEPS実施段階が開始されたことだけではなく、難易度が高く、かつ予測不可能な旅が始まったことをも意味するものでした。 BEPSの行動項目を実施しようとするスピードは国によって差異があり、時には国によってBEPS勧告の解釈も異なり、矛盾が生じたため、企業は新たなリスクに直面し、法人税制が今だかつてないほど脚光を浴びることになりました。 BEPSの進展を監視し、実施するための適切な管理体制を整備し、自身のビジネスモデルやストラクチャーが新しいグローバルな税務理念と合致するよう慎重に計画することによって、企業はBEPSの旅路をしっかりと進む中で、眩しすぎる脚光という照明を落とすことができるのではないでしょうか。


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