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2016年度 移転価格動向調査シリーズ

TP調査

本調査シリーズは、EYが昨年実施した2016年度グローバル移転価格動向調査を4回に分けてお届けします。 第1号「透明性とリスクの時代」では、調査から得られた知見について高 レベルの考察が繰り広げられました。第2号では、「BEPS対策によって移転価格はどう変わるか」と題し、税源浸食と利益移転(BEPS)対策の影響を取り上げました。 第3号では、移転価格リスク管理にかかわる戦略について検証します。 最終号の第4号では、運用上の影響を探ります。それぞれ、読者の業務に役立つ具体的な推奨事項を記載しています。

第3号: 係争の回避と解決

第3号では、17の業種にまたがる36の国・地域から623名の回答者が、係争の回避と解決という分野に関する回答結果に基づく内容について分析しています。

概して、多くの税務管轄区が財政難に直面する中、BEPSを対象とした新たな抜本的取り組みによって、世界中の移転価格に焦点を当てた係争の可能性が高まっています。 これに追い討ちをかけるように、税務当局は移転価格に焦点を当てた内部リソースを拡大させ、また移転価格ルールを法制化する国も増加しています。 事実、これだけの変化の中、またこれまで以上に多くの情報が税務当局の手中に入る中で、本調査の回答者は、いくつかの定義された地域にて係争が深刻化する時代を迎えています。 調査に回答した方々は特に、発展途上国において精査の急増を予期しています。

係争:より速く、広く、複雑に

本調査では、これまでと比較すると、税務専門家が移転価格に関連する係争が急増することへの懸念を示していることがわかります。 OECD(経済協力開発機構)が推奨するBEPS対策の実施へと移行する国が増える中、79%の回答者が、係争の解決がより困難になるだろうと考えています。 実際、EYグローバル移転価格リーダーであるピーター・グリフィン氏は、企業がより難易度の高い係争だけでなく、移転価格ライフサイクル(移転価格の計画や実施から係争が発生し解決するまでの期間) の劇的な短縮化にも直面することになると言います。 「BEPSなど透明性を高めるための動向により、税務当局はいまや、これまで以上に膨大な情報にアクセスできるようになりました」とグリフィン氏は続けます。

係争の増加が懸念される主要な問題

  • 無形資産(IP)

    BEPSの行動8では、ロイヤルティなどの無形資産に対する国境を越えた取引対価の裏付けとしてさらなる実体性を求めています。 2013年の調査では、こうした課税が係争の主要な原因であると指摘したエグゼクティブは32%にとどまっていました。 しかし最近の調査では、この数字は49%に跳ね上がっています。

    これは驚くような結果ではない、とEY EMEIA移転価格リーダーのオリバー・ヴェナール氏は述べています。 「国境を越えたIP課税が従前に正当化されていたものの、新しいBEPSではDEMPE機能、すなわち開発・改良・維持・保護・活用の所在へ注力することが求められています。 IPは長年、多くの税務当局から、所得隠しのためのメカニズムであるとして疑われてきた分野です。 これが、BEPS行動計画にIPが盛り込まれた1つの理由でしょう。IPは、多くにとって新しい試みとなる手法を使用して実施される調査の対象となる可能性が高いです。 その結果、国境を越えたIPにかかる対価が発生している企業にとって、これは係争が増加するための温床となるでしょう」

  • 恒久的施設

    BEPSの行動7では、企業の存在によりPEを形成していると判断するための基準が実質的に下げられています。 今から3年前には、PEが係争の重大な原因となると回答したのは27%にとどまっていましたが、その2年後には、この数は44%に増加しています。

    「国内での事業が課税対象となる存在、つまりPEを構成するものであるかという議論は、通常、多国籍企業における「計画や設計、製造、店舗、市場、販売、サービス」といったバリューチェーンで発生するものです」 と、チューリッヒに拠点を置くEYグローバルPEプロジェクトリーダーであるアイリーン・タン氏は言います。 従来、企業はこれら分野のうち複数の場所(倉庫保管、販売など)で事業を営むことができ、PEの形成を回避できていました。 しかしBEPSにおいてタン氏は、「税務当局に、同じ場所や異なる場所における諸事業をまとめて調査することを求める規則が導入され、その結果、税務当局にPEを形成していると判断させることが可能となります」と述べています。 PEに対するこの新しい拡大定義によって、「間違いなく、こうした問題をめぐる係争が増えることになるでしょう」とタン氏は続けます。

  • グループ企業間資金調達

    BEPSのもう1つの重点対象である、企業がグループ間での利子の収受もまた、係争をより頻繁に発生させる原因になると予想されています。 特に、これから2~3年のうちにこの分野で係争が発生すると予想した回答者数は、2013年の調査時の39%から48%に増加しています。

地域・国家間の差

本調査の結果、地域や国家間で大きな差が見られました。 例えば、全体の回答者の中でも欧州の企業は、新規のPEやグループ企業間の資金調達ガイドラインに対する懸念を示しました。 特に、米国に拠点を置く企業と、欧州に拠点を置く企業との間の差異が顕著でした。

こうした地域の差をより広い視点で見ると、日本企業における無形資産の重要性が、過去3年間の39%から、今後2年間の63%へと増加(両方とも全体の数字よりも大幅に多い割合) していることがわかります。 驚くべきことに、日本以外のアジアでは、商品やサービスの移転価格は過去3年間の84%(全体の中でも高い割合)からその後2年間では69%(全体の中でもかなり低い割合:色分けした下表を参照)に下がっています。


日本企業の回答によると、更正による罰金、利子、二重課税のリスクが欧米諸国においてよりも、アジア地域で顕在化されていることが明らかになりました。


課題への対応

調査の回答者は、係争の増加を予測しています。 「しかし、ただ待つより企業はもっと事前に防御姿勢に入るべきです」とカナル氏は言います。 ここで、検討すべき主要な手順について考えてみましょう。

1. 文書を整備する

「問題を提起する準備をしておくことで、税務当局に対する貴社の立場を向上させ、より早く、ポジティブな解決へと導くことができます」とカナル氏は言います。

2. APA(事前確認)を行う

リスクが大きく深刻である場合、「企業はかならず、一国、二国間、場合によっては多国間APAに基づき、懸念事項について解決策を模索しておくべきです」 とカナル氏は提案します。

3. 係争の「責任者」を検討する

係争の数が増え、規模も大きくなればなるほど、企業は係争を担当する専門チームを構築することで良い結果を得られるでしょう。 「これは、専門知識を追求し、リソースを最適化させ、管轄区を越えた一貫した知識を活用させるうえで有効な手段となります」とカナル氏は説明します。

4. すぐに行動する

カナル氏は、「企業が認識しているかどうかは別として、税務当局はすでに、 どの視点で調査を行うのが最も有効なのかということについて優先順位を付けることに注力し始めています」 と説明し、「準備するなら今です。 すでに、貴社が調査対象になるかどうかという問題ではなく、いつ調査されるか、という問題だからです」とカナル氏は付け加えています。


第3号の調査レポートをPDFでDownload(1MB)


第1号の調査レポート「透明性とリスクの時代」


第2号の調査レポート「BEPS対策によって移転価格はどう変わるか」