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2016年度 移転価格動向調査シリーズ2

TP調査

第2号: BEPS対策によって移転価格はどう変わるか

第2弾となる本報告書では、36の国・地域、17の業界にまたがる回答者から、OECD(経済協力開発機構)が提示した、税源浸食と利益移転(BEPS)削減に向けた15項目の行動計画によって促進される変化にどう適応しているかについて、より詳細に分析しています。 こうした変化は、すでに張りつめた緊張感を伴う移転価格の業務に、さらに圧力をかけるものとなっています。

今回の調査結果で明らかになったのは、企業が自身の税務戦略、移転価格ポリシーをもれなく文書化し、国際的な整合性を持たせ、事業を行うすべての国において、重要性の有無にかかわらず、予想を超える税務当局の精査に対応できるよう準備しておく必要があるということです。 引き続きストリングアートに例えると、どの糸もほころびが出ず、すべてをしっかりと張ってピンを繋いでいく必要があります。

BEPS:老朽化したインフラの代替策として

BEPSプロジェクトは、100年の歴史を持つ税制の枠組みが、国境を越えて広がる今日のビジネス運営の手法に合わないという懸念から、G20各国の要請により実施されました。 急速に変化する技術に影響された、広大に広がるグローバル取引の潮流の時代において、こうした枠組みが無国籍所得の原因となっていた可能性もあります。

BEPSプロジェクトは、15項目の個別かつ包括的な「行動計画」にまとめられ、一貫性、実体性、透明性、電子経済、多国間協定の5つの主要分野に分類されます。 BEPSはグローバル企業の納税者コミュニティ間でブレークし始めたばかりの、改革の1つの波だといえます。 そのため、2016年に行った調査では、グローバルな納税コミュニティの反応や相対的な即応度について、ユニークな初見が提示されています。

各国の政府では、この勧告(推奨事項)の実施に対して立法上の解釈の異なりから対応のスピードが分かれています。 また、施行に対する姿勢にも目立った違いがあり、このことが一般的な税環境、とりわけ移転価格をとりまく環境に対してより大きなリスクをもたらす結果となっています。

行動指針:BEPSで義務付けられた文書化を実施

BEPSの行動13では、企業が現地受入国政府に対し、自身の移転価格ポリシーを同時文書化することが要求されていますが、 そのフォーマットは従来のOECDや現地国のガイダンスのものと比較するとかなり差異があり、また特定の分野においてはより具体的な情報が要求されています。 これには企業のグローバル取引、税務の詳細事項も含まれています。

行動指針:BEPSの原則に準拠する

大多数の企業が現在、全取引に対する同時文書化に対応できていないだけでなく、 その文書は現状ほぼ、BEPS原則に未適応な状態です。特に、自社の文書化がBEPS対策 に適応していると回答したエグゼクティブは全体のわずか17%しかありません。 残りの83%は、自社の記録管理はまったくBEPS対策に適応していない(16%)か、主要な取引、主要管轄区域の場合にのみBEPSに適応している(67%)と回答しています。

これまでの日本多国籍企業の移転価格管理体制の多くは、現地に裁量を与える分権型で、欧米企業のように中央集権的ではありませんでした。 日本多国籍企業の多くは、親会社がグリップを握って対応することが求められるBEPS対応の文書化整備のスタート地点に立っていると思われます。 これまでの日本多国籍企業の移転価格文書は、現地主導で対応しているケースが大半でしたが、親会社主導で移転価格文書を整備することが主流の欧米企業に習い、 軌道修正を始めたところだと思います。 また、ビジネスが先行し、移転価格管理が後付という移転価格管理体制が一般的な日本多国籍企業では、移転価格文書化を着手する前に移転価格ポリシーの策定から対応を始めている状況です。

業界ごとの取り組み

移転価格

行動指針:国別報告書の完全実施に取り組む

BEPSの行動13で義務づけられる国別報告書(CbCR)について、ほとんどの企業は、慎重とは言えないほど出遅れた状態にあるように思えます。 ここでは回答者の3分の2が、未だ初期のモデリング段階にある(45%)、又はまったく何の取り組みも開始していない(22%)かのいずれかの状況にあります。 移行させるための主要な活動を行っていると回答したのは、全体の企業のわずか3分の1にとどまっており、これでは結果がネガティブなものになることが否めません。

BEPS:PEと無形資産への影響

行動指針:BEPS関連の税務係争、特にPEや無形 資産の分野における税務係争に備える

BEPSに導かれる結果や圧力は、税務係争の様相に一見遠回りなようで確実な影響を与えます。 実際、これだけの大きな変化の渦中にあり、膨大な情報が税務当局の手にわたることから、調査回答者は、複数の地域において、とりわけ新興市場において、 過去に経験したことのないような高まる係争の時代を迎えつつあります。

行動指針:PE関連の影響についてより周知する

移転価格に関する税務係争でもっとも増えることが予想されるのは、BEPSの計画7に取り上げられたPEの問題に関するものです。 計画7は、受入国が企業の存在をPEとみなし、法人税の対象であると宣言できる判定基準を大幅に下げられた内容となっています。 3年前には、PEを係争の重大な原因だと回答した企業はわずか27%でしたが、そのわずか2年後には、この数値は44%にまで跳ね上がりました。

行動指針:無形資産をより注視する

BEPSの行動8において重視されているのは、ロイヤルティやその他の無形資産の国境を越えた課税の裏側に一層の実体性を要求することです。 この分野においては、自社の無形資産の移転価格が重大懸念事項であると回答したエグゼクティブは、過去3年間にわたり32%でしたが、その後、この割合は49%に増えています。

BEPS:なすべき仕事がある

BEPSはすでに、移転価格の専門家に対して高い透明性を要求し、定義や特性の更新や変更を提示、差し迫った強制事項や期限を設けています。 ストリングアートに例えるならば、かつてないほどに糸が引っ張られている状態です。 企業はそれぞれが描いたデザインを補強するために行動を起こす必要があります。

BEPSに対応しながら自社をリードする税務担当者における、BEPS対策問題には、移転価格文書化レベルの強化、PEの領域の拡大、 IP管理や価格モデルの正当化理由の根拠、さらにはグループ企業間の資金調達や税務係争への準備、手順策定などが含まれます。 企業は、自身の価格モデルと文書化を、この新しい現実に沿って準備しておかなくてはならないということは明らかです。

数多くの要求事項の中で、企業はなぜ予想に反してこれまでよりも歩みが遅いのでしょうか? リソースや認知度が不足しているからでしょうか? グリフィン氏は、そういったことよりむしろ、これは新たな規則が多様な管轄区をまたいでどのように適用されるかについての不透明感が未だ多くあるためだろう、と述べています。 「BEPSの完全な影響力が明らかになるには、さらにもう何年かかかるかもしれません。 G20だけではなく、新興国市場の税務当局もが、実務において大きな変更をもたらすことでしょう。 そしてそうした変化は実際すでに起こっています」。 しかしそれでも、企業にはそれほど長く待っている余裕はないとグリフィン氏は続けます。 「なぜなら、グローバルビジネスにとって、BEPSに対応して評価、対応、準拠、調整を行うときは、今を置いて他にはないからです」


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第1号の調査レポート「透明性とリスクの時代」


第3号の調査レポート「係争の回避と解決」


第4号の調査レポート「グローバル移転価格の実践」