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さらなる企業成長へと導く税務部門

Tax Insights for business leaders No.19 掲載記事

カーンズ 裕子
EY税理士法人 エグゼクティブ ディレクター

「グローバルな事業展開の成功のためにも税務部門が事業部門のビジネスパートナーとして変化していくことが求められており、経済のデジタル化はそのニーズに拍車をかけているといえます」

多くの日本企業において税務部門は申告業務を行うチームと軽視される傾向があります。 しかし、税金は法人税だけでも税前利益のおよそ30%、そして関税等の間接税まで含めると企業利益に大きなインパクトを持つビジネスコストとなるため、日本企業の競争力と成長へのインパクトは小さくありません。 グローバルな事業展開の成功のためにも税務部門が事業部門のビジネスパートナーとして変化していくことが求められており、経済のデジタル化はそのニーズに拍車をかけているといえます。本稿では税務部門がビジネスパートナーとして効果的に機能するための取組みについて検討します。

なぜ今まで以上に税務部門の変革が必要なのか

  • 経済のデジタル化、税コストを反映した企業の業績指標の浸透、株主や消費者による企業のサステナビリティーやコンプライアンスへの期待増加等を含む企業を取巻く環境の変化が、ビジネスコストそしてビジネスリスクとしての税金管理の必要性を高めているといえます。
  • デジタルは世界的なビジネスモデルの大きな変革を今までにないスピードで起こしています。税法が変わらずとも、取引や契約の形態が変わることで課税関係は大きく変化する可能性があります。ところが、ビジネスモデルの変化は国際税制改革を促し、OECD(経済協力開発機構)主導のBEPS(税源浸食と利益移転)対策に始まり、各国においてデジタル取引を課税する制度が見直されています。BEPS対策によって統一性が期待されていた国際課税制度に反する一方的な税制改正の動きも一部の地域でみられており、新しい事業や投資について、過少でも過剰でもない「正しい」納税を行うことは容易なことではありません。思わぬ課税コストが発生して新事業のリターンが下がらないよう、早い段階から税務部門と相談を開始することが必要です。
  • 各国の税務当局、そして株主や非営利団体による企業の税負担の開示要求が世界的に高まっています。BEPSの行動計画に基づき、多くの国が税務当局への提出義務を導入した国別報告書には、多国籍企業の各国における納税ポジションに関わる情報が開示されます。これらのデータが税務当局間で共有されるようになり、すでに強化される傾向にある多国籍企業に対する税務調査がさらに活発化することが予想されています。海外の事業について、税務当局から追及されるような税務ポジションになっていないか、海外子会社間の取引について不適切に利益が偏るような価格設定になっていないか、決算の直前に決算数値に重要な影響が発覚するような事態にならないよう、会計年度を通して税務部門の協力を求めることが不可欠です。
  • 機関投資家や海外株主の増加による影響により、営業利益からReturn on Equity (ROE=純利益/自己資本)が企業業績評価の指標の中心となってきています。結果、ROE向上のために連結実効税率改善に対する企業経営者の関心が高まっているといえます。日本企業は税務をコストとして考える意識が欧米企業に比べて低いといわれますが、連結実効税率の比較においても平均的に日本企業は、欧米の競合他社を下回る傾向があります。多くの企業が中期経営計画においてROE目標値を掲げるなか、目標を達成しグローバル市場における競争力の強化するため、企業経営者は税務部門の協力を要請する必要があります。

税務部門の将来像

上記のような状況下において、ビジネスパートナーとしての税務部門に求められる活動は、例として:

  • 新規事業への取組みに初期段階から必ず参加し、税務効率性とリスク管理の観点から適切な取引フローや取引の価格設定、買収ストラクチャーや資金調達ストラクチャー、間接税や源泉税を考慮した最適なサプライチェーン等、外部の専門家を適切に活用し事業部門にアドバイスを行う。
  • 海外における税務調査等の潜在的に重要なリスクを税務ガバナンス体制のもと継続的にモニターし、決算時のサプライズを未然に防ぐ。
  • 重要海外拠点の税務担当者に実効税率のレビューと報告を義務付け、連結実効税率の改善を図る。また、税務業務のプロセス改善によるコスト削減を推奨し、グローバルで税務部門のコストダウンと効率化を図る。

図1で、税務部門の現状と、ビジネスパートナーとしての理想像を税務部門の業務と担当者のスキルセットで整理しています。税務部門は、申告書作成業務から、ガバナンス体制構築とリスク管理、そして戦略的意思決定の支援や企業価値への貢献などの業務によりフォーカスし、そのためのビジネススキルや戦略策定スキルが必要となります。

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税務部門が変化していくための取組み

多くの日本企業の場合、税務担当者は経理からのローテーションベースで税務のノウハウが蓄積されにくく、バックオフィスとして増員予算に限度があり、国内税務コンプライアンス以上の業務を行う事が困難であると理解しています。また、BEPS国別報告書作成のようなコンプライアンス業務は増加の一路です。社会では働き方改革が推奨され、業務遂行のためにも、税務部門における変化が必要といえます。最近開催されたEYセミナーでのアンケート結果でも、最も時間を費やしている業務はコンプライアンスという結果が出ています。

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社内における変革における対策として、以下の4つの取組みが考えられます:

  1. 税務部門のビジネスパートナーとしての変化を会社の方針とする
    税務人材の補強や事業部門との連携を促進するためには、企業のトップマネジメントが会社の方針として社内に打ち出すことが一番効果的であると考えます。税務部門が申告書作成だけでなく、企業価値に貢献する部門である、という方針のもとに、そのように活動することに必要な組織的な枠組みや人材を整えていきます。 この会社方針が一般的に「タックスポリシー」(税務方針)と呼ばれるものです。
  2. コンプライアンス業務の負担を減らす
    税金計算と申告書作成作業は、一連のデータ処理から行われれます。データをマニュアル加工する必要性を極力減らし、税金計算プロセスの効率性と信頼性を高めることにより、コンプライアンスの作業時間の削減が可能になります。必ずしも高価なシステムを導入することは必要ではなく、負担の大きい作業から業務改善を始めることを推奨します。
  3. グローバルビジネスを支えるグローバル税務部門となる
    ビジネスがグローバルに展開していることから、税務部門もグローバルにサポートができる体制を構築する必要があります。本社から直接海外の税務業務を監督しなくても、適切な税務方針とガイダンスのもと、現地で税務コストやリスクを管理し、必要な情報を本社に報告するようプロセスを構築します。グローバル企業の税務管理は、本社主導で行い、本社のマネジメントが必要な時に必要な情報を把握できる形であることが理想です。
  4. 人材を補う
    本社主導によるグローバル税務部門の構築には、本社機能を支える適切な税務人材が必要です。社内での人材育成、外部からの採用、又は税務部門の機能のアウトソース等、人材を補う方法は1つではありません。本社における税務責任者は、グローバル税務部門をリードできる素質も大切ですが、特に必要なのは、企業のビジネスを理解していることです。昨今では、税務業務をすべて(人材移籍も含めて)外部にアウトソースし、企業側では、ビジネスに詳しい人材がアウトソース先のアドバイザーを自社の税務リソースとして使う形がみられるようになっています。これは、グローバルアドバイザーのネットワークを活用するコスト効率のよい形といわれています。

本稿が税務部門に対する意識を変化させ、企業成長に貢献できる体制作りへの取組みのきっかけとなれば幸いです。


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