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日米貿易協定による日米それぞれの恩恵 
今後の交渉可能性や関税削減へ向けて

Japan tax alert 2019年10月25日号

エグゼクティブサマリー

日米間で協議・会合が行われてきた日米貿易協定が2019年10月7日ワシントンDCにて署名されました(両国の国内手続完了通知後30日、または別途合意する日に発効)。年明けにも発効される見込みであり、世界のGDPの3割を占める経済大国である両国間の貿易協定として大きな経済効果がもたらされます。デジタル貿易に関する協定を除き、日米貿易協定の内容としては現状物品貿易に限定されたもので、他のFTAと比べてサービス等は含みません。日米貿易協定の内容については各方面から発表されており、すでにご存じの内容を含みますが、本アラートでも改めて協定内容を確認していきます。


品目の税率について

品目の税率について、日本と米国それぞれ関税撤廃・引き下げする品目を定めています。

(1) 日本への輸入

日米貿易協定においては、農林水産品に係る日本側の関税について、TPPの範囲内となるよう税率が設定されました。例を挙げると、牛肉、豚肉、ホエイ、チーズなどになります。

TPPとの違いとしましては、コメは本協定から除外されており、日本のコメ農業界保護がとられました。また、脱脂粉乳・バターなど、TPPで関税割当枠が設定された品目について、新たな米国枠を設けないことになりました。

日米貿易協定では、取り決めがされた品目のうち、即時撤廃のもの、段階的関税撤廃・引き下げのものがありますが、そのほとんどは段階的関税撤廃・引き下げとなります。ただし、牛肉、豚肉、ホエイ等の特定の農産品に対し、輸入合計数量が一定の発動水準を超えた場合はセーフガード措置をとることができます。

また、グリセリン、ペプトン、ステアリン酸など化学製品についても関税引き下げされています。

鉄鋼製品、卑金属製品など有税工業品については、日本側は譲許していません。

(2) 米国への輸入

日本からの米国の乗用自動車の輸入については、現状の関税2.5%となりました。ただし、自動車・自動車部品について、米国譲許表にさらなる交渉による関税撤廃の取り組みがされることが明記されており、今後交渉される余地は残されています。また、首相大統領間の確認として日米貿易協定の履行中は米国通商拡大法232条の自動車・自動車部品への追加関税がされないこととされています。

日本が米国に輸出するその他工業製品では、幅広い品目で関税が撤廃・引き下げされることになります。

例えば、高性能機械・部品等として・マシニングセンタ、工具、旋盤、鍛造機、ゴム・プラスチック加工機械、鉄製のねじ、ボルト等や、日本企業による米国現地事業が必要とする関連資機材(エアコン部品、鉄道部品等)、今後市場規模が大きくなる可能性のある先端技術の品目(3Dプリンタ)、そのほかカラーテレビなどが関税即時撤廃・引き下げとなります。これらの品目について、今後関税無税となっていくものも多いため、工業製品を扱う日本企業についてはビジネスチャンスといえます。

原産地規則

日米貿易協定は原産地規則について規定しています(日本においては協定附属書Ⅰ、米国は協定附属書Ⅱによりそれぞれ規定されています)。関税撤廃や引き下げの恩恵を受けるため、この原産地規則上、日本原産または米国原産と認められなければなりません。それぞれの附属書において、原産地規則の細かな定義付けがされていますが、実質的変更基準を満たす産品として、関税分類変更基準が両国でとられています。いずれかの類の非原産材料からの生産または産品が該当する類、項もしくは号への、他の類からの変更(CC)や、同様にいずれかの項から他の項への変更(CTH)、いずれかの号から他の号への変更(CTSH)がそれぞれの品目別に定められています。

この実質的変更基準を満たすかどうか判断するため、産品や一次材料のHSコードを都度確認し確定していく作業が重要です。また、原産地についての申告内容が正しいことを担保するため、根拠資料を保管しておくことも大切です。

その他、関税分類変更基準を満たさない非原産材料を含む場合であっても、酪農調製品など一部の例外を除き、全ての当該非原産材料の価額が当該産品の価額の10パーセントを越えず、他の要件を満たす場合は当該産品を原産品とする僅少の規定がされています。

今後の動向・企業への影響について

日米貿易協定の内容としては現状物品貿易に限定されたものであり、また譲許された品目については日本向けについては主に農産品、米国では主に工業品であり、すべての品目をカバーしていません。インドタイFTAのように、アーリーハーベスト(あらかじめ交渉項目が本妥結に至る枠組みを決めたうえで、先行して自由化を進める品目を決めていくもの)の制度は設けてられていないため、将来的にさらに取り決めがされていくか不透明なところがあります。一般最恵国待遇(MFN税率)の例外としてGATT24条により、FTAを結ぶことが認められていますが、FTAといえるためには構成地域の原産の産品の構成地域間における実質上のすべての貿易について廃止がされることが要求されています。

日米貿易協定上、将来の関税削減に向けた交渉を予期される記載 (日本へ向けた農産品、米国へ向けた自動車及び自動車部品の関税削減のための交渉) がありますし、それ以外の品目についても交渉により、さらなる関税撤廃・引下げが行われていくのか注目されます。

以上のような今後の日米交渉の動向に目を向けつつ、米国が主要マーケットである多くの日系企業にとって、グローバルサプライチェーンの構築について、改めて検討していくことが有益です。原産地規則やコンプライアンス体制も考慮しつつ、日米貿易協定で関税が引き下げられた工業製品について、海外原産から日本原産へシフトしたサプライチェーンへの変更を検討したり、自動車・自動車部品について、当面追加関税のされない日本原産を主として米国へ輸出する体制を構築することも考えられます。以上は例示にすぎませんが、適用可能な関税プランニングを適切に見極め、実行することが関税削減ひいてはコスト削減につながります。

(日米貿易協定)税率引き下げ例

日本への輸入

(日米貿易協定)税率引き下げ例:日本への輸入

米国への輸入

(日米貿易協定)税率引き下げ例:日本への輸入

※本アラートの詳細は、下記PDFからご覧ください。


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