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移転価格調整金の関税上の取扱いに変更の可能性:欧州司法裁判所(ECJ)の 画期的な判決

Japan tax alert 2018年1月18日号

欧州司法裁判所(ECJ)は2017年12月20日、「遡及的な価格調整の対象である移転価格は、関税評価額を決定する取引価格1(Transaction Value)として使用可能か否か」という問題を扱った、いわゆる浜松ホトニクス訴訟(C‑529/16)で判決を下しました。この画期的な判決でECJは、「EU関税法の下では、最初にインボイスによって請求、申告され、会計期間終了後に遡及的に調整、合意された取引価格を関税評価の基礎とすることは、会計期間の終了時点での調整が上方と下方のいずれとなるかが輸入された時点で分かっていない場合、認められない」との立場をとりました。

ECJの判決は、EU域内の関係会社と輸入取引を行っている企業に甚大な影響を及ぼす可能性があります。ECJが取引価格を攻撃の的とするとみられるからです。EU域内の関係会社との輸入取引額が定期的な調整の対象である移転価格に基づいている場合、取引価格は簡単には適用できないと思われます。また、年度末の調整は上方と下方のいずれであれ、もはや関税評価額の決定に際して勘案することはできません。本稿で説明するように、判決に対しては様々な解釈が可能です。

1. 背景

  • 移転価格の遡及的な調整が関税評価額の決定に及ぼす影響に関する疑問は数十年にわたり議論の的となってきました。EUにはこの疑問に関連する法律も判例も存在しないことから、この問題は法的に不透明な状態にあり、EU加盟国の間で見方は分かれていました。一部の加盟国の裁判所は、他の加盟国では認められている移転価格の下方調整を理由とした関税等の還付を否定しています。とはいえEU全体で見れば、関税当局は上方調整が輸入関税の追加的な支払いにつながると考えていることは間違いありません。
  • 本稿で取り上げる訴訟は浜松ホトニクスのドイツ法人であるHamamatsu Photonics Deutschland GmbH(浜松ホトニクス・ドイツ)が提出した関税の還付申請に関するものです。浜松ホトニクス・ドイツと浜松ホトニクスは、日独租税条約を背景に、相互協議手続きを利用してドイツの税務当局との事前確認制度(APA)を完了させました。このAPAは浜松ホトニクス・ドイツと日本の浜松ホトニクスの間でEUに輸入された貨物の取引を対象としたものです。
  • APAの下では、関連会社間取引は独立企業間基準(公正妥当な基準)を満たさなければなりません。すなわち、こうした取引の価格は2つの非関連者の間で起きた場合の価格を反映したものでなければなりません。会計年の終了時点(年度末)には、当初使用された移転価格は「残余利益分割法」(移転価格が公正妥当な基準レンジに適合していることを確認するために使用される手法)に基づいて調整されます。
  • 浜松ホトニクス・ドイツが輸入した貨物の関税評価額は、この最初に決定された移転価格に基づいています。浜松ホトニクス・ドイツが輸入した貨物に適用される関税率は0%から6.7%でした。浜松ホトニクスグループは2010年度末の時点で浜松ホトニクス・ドイツの営業利益率が基準レンジを下回っていることを認識しました。そのため移転価格は、浜松ホトニクス・ドイツの2010年度の営業利益率が基準レンジ内に収まるように遡って下方調整され、浜松ホトニクス・ドイツはこの調整を受けて払い過ぎた関税の還付申請を提出しました。その還付額は以下の方法で計算されました。
    還付額 = (当初使用された関税評価額 x 平均輸入関税率) ÷ (調整された関税x平均輸入関税率)
  • ドイツの関税当局は、還付金額が貨物の種類ごとに配賦されていないことを理由に、申請を却下しました。
  • 浜松ホトニクスは関税当局の決定を不服としてミュンヘン貨物裁判所(以下、「裁判所」という)に提訴しました。裁判所の見解は「関連者間の『最終的な』移転価格は経済協力開発機構(OECD)の独立企業原則に基づいているものの、輸入時点で申告された価格は暫定的なものであり、最終的な移転価格調整の対象である。

よって、そうした価格は架空のものであり、取引価格を関税評価額とすることはできない」というものです。裁判所はこの見解を踏まえて手続きを差し止め、仮命令を行うためECJに以下の予備的質問への回答を求めました。

  1. 移転価格が年度末に調整される場合、年度末の調整が関税還付又は追加的な支払いのいずれにつながるかにかかわらず、取引価格を関税評価額の決定に使用できるか。
  2. 取引価格を関税評価額の決定に使用できるとすれば、関税評価額の検証や決定にあたり、その後の移転価格の(上方及び下方への)調整の影響を認識できる簡便なアプローチは使用できるのか。

2. 浜松ホトニクス訴訟におけるECJの決定

  • ECJは判例を参照し、「関税評価額は原則輸入された貨物の取引価格に基づくべきであるが、関税評価額を輸入の時点で決定できない場合に限り、代替的な価格決定方法が使用されるべきである」との見解を改めて示しました。
  • ECJはさらに、「取引価格は域内流通のために輸入申告される時点での貨物の経済的価値を反映させ、その貨物の価格に含めるべきすべての要素(例えば販売手数料、輸送費用、特許料、ライセンス料)を勘案すべきである」と述べま した。
  • 貨物の通関後に取引価格の額が調整され得るのは、瑕疵のある貨物に関連して販売業者が行う調整など特定の状況に限られます。ECJは、関税評価額の基礎となる取引価格を決定するために(移転価格の修正など)その他の調整を認めることに対し、法的根拠は存在しないと考えています。
  • ECJは続けて、「EU関税法は輸入者に対し、その他の種類の調整を勘案する義務は課していない」と述べました。すなわち、EU関税法の規定は輸入者に対し、下方調整の場合の取引価格の改定を義務付けておらず、上方調整を行う義務も課していません。さらにECJは、「輸入業者は取引価格の決定に際し、下方調整または上方調整を勘案することさえ認められていない」と判断しています。
  • ECJは第一の質問に関し、「EU関税法は、輸入当初のインボイスに基づき申告され、会計期間終了後に一律に調整される取引価格を関税評価額とすることは、会計期間終了時点での調整が上方と下方のいずれとなるかを知ることができない状況では、認められない」と判断しています。
  • 換言すれば、取引価格は、一部を当初インボイスにより申告された額に基づき、さらに一部を、輸入された時点には未定の年度末調整額で構成される移転価格に依拠することはできません。

3. 分析:複数の解釈が可能

  • ECJの判決は短く、移転価格と関税評価の関連性に関する詳細な分析を含んでおらず、遡及的に調整可能な移転価格の場合には取引価格を関税評価額とすることを否定すると読むことができます。一方で、ECJの判決は、移転価格と関税評価の間に関連があるとする見解の否定と読むこともできます。
  • これは、控え目に言っても注目に値します。この判決は、世界税関機構(WCO)が2015年に公表した「関税評価と移転価格に関するWCOガイド(WCO Guide to Customs Valuation and Transfer Pricing)」で表明した見解と正反対であるからです。WCOはこのレポートで、WCOが移転価格と関税評価が相互に影響を及ぼすと指摘する主張が存在するとの認識に基づき、移転価格と関税評価をさらに整合させるよう求めています。
  • ただし、「関係会社との輸入取引に取引価格を適用するには、価格が輸入された貨物の買い手と売り手の関係に影響を受けていないことを税関当局が納得するように証明されるべきである」ことが前提となります。EU関税法は輸入業者に対し、買い手と売り手の関係が影響を受けているかどうかをいわゆる「テストバリュー」に基づいて分析するよう求めています。しかし実際には、そうした証拠の提供には移転価格文書が使用されています。その点に関して、ECJの判決はWCOがケーススタディ14.1および14.2で採用した結論と矛盾しているように見えると弊社は考えています。
  • WCOのケーススタディ14.1および14.2は、関係会社との輸入取引が発生し、輸入者が関税評価額を検証する過程で移転価格情報を勘案する状況を取り扱っています。
  • 手短に言うと、ケーススタディ14.1に基づけば、輸入者は場合によっては移転価格分析を提出することによって価格の妥当性を説明することができます。これに対してECJの判決は、年度末に遡及調整が可能な移転価格に基づく関税評価額を使用することを認めていないと思われます。
  • ケーススタディ14.2は、「移転価格分析は、義務的な補償調整を行っていないことにより、独立企業間価格に基づく取引ではなかったことを示す」と結論づけています。 その結果、輸入者は取引価格を関税評価額とすることができません。 ところがECJは、浜松ホトニクス訴訟で、EUの関税法が「輸入当初のインボイスに基づき申告され、会計期間終了後に一律に調整された取引価格を関税評価額の基礎とすることは、会計期間終了時点での調整が上方と下方のいずれとなるかを知ることができない状況では、認められない」と判断しています。
  • 弊社の見解では、こうしたECJの判断に決定的な解釈は存在しません。しかし、移転価格が取引価格として使用され、後で遡及的な年度末の調整が行われる可能性がある状況では、最も可能性のあるECJの意見として次の2つが考えられます。
    • 輸入時に申告された関税評価額は取引価格であり、遡及的な調整は下方であれ上方であれ、適用できない。
    • 又は、
    • 輸入当初の取引価格は(年度末に遡及的に調整され得るため)認められない。したがって浜松ホトニクスは(取引価格以外の)他の関税評価決定方法の1つを利用するべきである。

4. 企業にとってECJの判決が意味するものは何か?

ECJの判決は、EUとの間に国際的なサプライチェーンを有し、遡及的調整の可能性のある移転価格を現在使用している企業に大きな影響を与える可能性があります。ECJの判決は、どのように解釈されるべきかが明確でないため、そうした企業に不透明感をもたらしています。こうした理由から、上記に該当する企業には、現在の移転価格ポリシーと価格調整メカニズムの見直しと評価を行ったうえで、判決による影響を受ける可能性があるかどうかを判断することをお勧めします。

前述したように判決は不明瞭です。一方で、現時点で弊社は企業に対して以下のような影響があると予想しています。

  • 関税当局が輸入者に対して移転価格の上方調整に基づく関税評価額の調整を要求することは、もはや許されない。
  • 企業は最初に申告した関税評価額を移転価格の下方調整に基づいて調整することは、もはや許されない。
  • 遡及的な移転価格の調整の取扱に関する取り決めについて発出された判例等が、引き続き有効かどうかを評価する必要がある。
  • 関税当局がECJの今回の判決の解釈を採用し、取引価格以外の決定方法を適用するよう指示する可能性がある。
  • 企業は、これまでの遡及調整ではなく、継続的、かつ将来的調整を軸とした動的価格設定を検討することも重要になる。

  1. 取引価格は、貨物が欧州連合(EU)の関税地域への輸出を目的に販売されたときに実際に支払われ たか支払われるべき価格に、運賃等所定の加算要素の額を加えた価格として定義されます。

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