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関税評価技術委員会が移転価格に関するケーススタディを承認

Japan tax alert 2017年11月16日号

概要

関税評価技術委員会(以下、「TCCV」)は、税関当局による移転価格文書の活用に関する新たなケーススタディを承認しました。このケーススタディは、世界税関機構の理事会の承認を経て、TCCVケーススタディ14.2として発表される予定です。

TCCVは、世界貿易機関(以下、「WTO」)の関税評価協定により創設された関税評価専門委員会として、関税評価協定に関する解釈及びガイダンスを提供することを責務としています。 TCCVは、180カ国が参加する政府間機関である世界税関機構(以下、「WCO」)の管理下にあり、そのガイダンスは、いかなる国・地域に対しても法的拘束力を持つものではありませんが、世界各国の税関当局により恒常的に参照されています。

詳細

背景

移転価格税制及び関税評価協定の関連者間取引に関する規定の目的はいずれも独立企業間取引の実現ですが、その具体的な内容は異なります。そのため、世界各国の税関当局は、移転価格税制上の価格を裏付けるために作成された文書が、関税評価額を裏付ける根拠となるか悩まされてきました。

輸入者の多くは、取引価格、すなわち輸入貨物に支払われた又は支払われるべき価格(以下、「現実支払価格」)に基づいて関税評価額を算出しています。取引価格の使用は文書化や記録保持が容易であるというメリットもあります。

しかし、関連者からの購入について、取引価格を使用する際には特別なルールが適用されます。関連者間取引については、以下のいずれかの場合に、取引価格が関税評価額として認められます。

  1. 販売状況を検証した結果、関連者間の関係性が現実支払価格に影響していない(法人税の観点では、状況を総合的に勘案して、関連者間の取引価格が、非関連者との取引であるかのように決定されていることが立証されている)
  2. 輸入商品の取引価格が特定の検証価格に近似する場合
    検証価格による証明はあまり用いられておらず、輸入者は通常、販売状況基準に基づき取引価格の妥当性を立証します。

販売状況基準では、買手と売手の関係が価格に影響していないことを確認するため、その取引を取り巻く状況を検証します。 2010年、TCCVはコメンタリー23.1を発行し、その中で、税関当局が、販売状況を検証する際に移転価格文書を使用することを認めています。昨年、TCCVは取引単位営業利益法(TNMM)に基づいて輸入者・販売者の利益率の検証が行われている移転価格文書により、関連者間の関係が価格に影響を与えなかったこと、さらに、その結果、この方法を用いて算定された取引格が適切であることを立証し得ると解説するケーススタディ14.1を承認しました。

新たなケーススタディ14.2では、当事者間の関係が価格に影響を与えているため、取引価格を用いることができないと税関当局が移転価格文書に基づいて結論付けることが解説されています。

ケーススタディ14.2

ケーススタディ14.2では、関連者から高級ハンドバッグを仕入れる輸入者が取り上げられています。輸入者、輸出者はともに、多国籍ブランド企業の子会社です。関連者間価格は、経済協力開発機構(以下、「OECD」)のリセールマイナス方式に準拠して算定されました。この方式は、輸入者の利益率を比較対象企業群の利益率と比較する方法です。比較対象企業とは、輸入者にとって同様な機能及びリスクを有し、非関連者と取引を行っているベンチマークとなる企業を指します。このケースでは、対象年度の輸入者の売上総利益率は64%、ベンチマークとなった比較対象企業の利益率の範囲は35~46%でした。

通常、リセールマイナス方式を含め、OECDの利益基準による移転価格算定方式を採用する場合、納税者の実際の利益がベンチマークの範囲外にある場合には調整が必要となります。輸入者の利益率がベンチマークの範囲を上回っている場合は輸入者が追加的な支払いを行う、あるいは、輸入者の利益率がベンチマークの範囲を下回っている場合は輸出者が輸入者に調整金を支払うなど、調整を行うことで利益率がベンチマークの範囲内に収めます。ケーススタディ14.2では、輸入者の利益率がベンチマークの範囲を超えているため、輸入者が輸出者に対し追加的な支払いを行うことで、輸入者の原価を引き上げ、利益率を引き下げることが期待される状況となります。このような追加的な支払いを行う場合は税関当局に申告のうえ、これに付随する関税等を支払うこととなります。しかしながら、ケーススタディ14.2における事実関係では、調整が行われていないことが事後調査で判明したと記述されています。したがって、最終的な利益率はベンチマークの範囲を上回ったままとなります。

以上のことから、ケーススタディ14.2では、調整が実施されていないため、移転価格文書に基づき独立企業間価格による取引でないことが立証されたと結論付けています。そのため、この輸入者は取引価格を用いることができません。

輸入者にとっての注意点

OECDの利益基準による移転価格算定方法を利用する企業は、通常、ベンチマークの範囲に収まるよう調整を行っているため、このケーススタディに直接該当することはないと考えられます。しかしながら、状況により、輸入者が補償調整を実施しない選択を行う可能性も考えられます。

実務上生じ得る状況の一例としては、輸入者の利益が僅かにベンチマークの範囲を上回っているものの、法人税の観点でのみ状況を考慮すれば、輸入国におけるベンチマークを上回る利益は法人税の過払いを意味し、その状況を放置する決定を行っても税務当局がこれを批判することは想定しにくい、と税務部門が判断する場合が考えられます。しかしながら、調整によって課税価格及び関税額が増加することとなるため、税関当局は異なる見解を有するものと考えられます。ケーススタディ14.2では、関税評価の観点からは調整が必須であり、実際に、当該調整を行わない場合には、独立企業間価格ではないことの有力な証拠になる、との明確なガイダンスが示されています。

また、別の事例として、輸入国が通貨統制(又はその他の法人税に関する統制)を実施しており、調整のために当該国から追加の支払いを行うことが(不可能ではないまでも)困難である場合が挙げられます。補償調整を行わない前提のもと、類似の状況に比べて法人税を過払いしていることを立証することを目的に移転価格文書を作成している場合があります。関税の観点からは、こうした国の輸入者にとって、この戦略は非常に危険です。法人税は過払いのまま、取引価格が否認され、関税価格額が上昇した結果、関税額が増加することになります。このケーススタディが、通貨統制を実施している中国によってTCCVに提起されたという点は興味深いところです。

最後に、関税上、調整が考慮されるためには、貨物に対する実際の支払いが伴わなければならない点を理解しておく必要があります。

税関当局は、多くの場合、調整によって輸入者の販売原価に影響を与えているか確認するため、当該調整に関連する仕訳帳を確認します。税務申告書上のみの調整では関税上の対応としては不十分です。


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