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オーストラリア控訴裁、関連当事者からの借入れに関するシェブロンの上訴を棄却

Japan tax alert 2017年8月3日号

今回の判決により、関連者間取引に幅広い影響がもたらされる

オーストラリアの連邦控訴裁判所( 以下、「オーストラリア税務局(AustraliaTaxOffice又はATO)」)は2017年4月21日、オーストラリアの子会社及びATOが関与する、重要な移転価格案件の上訴を棄却する判決を下しました。

本件は、シェブロン・オーストラリア・ホールディングスPty Ltd(以下、「CAHPL」)が米国居住子会社から、担保を設定せずにオーストラリア・ドル建てで関連者融資を受けていたことに関わるものです。 当該資金は、米国子会社が最終的な親会社であるシェブロンのグローバルグループの保証という恩恵を得て、外部から米ドル建ての低利子融資として調達したものでした。 関連当事者間の利率は、ATOに提示された詳細にわたる移転価格分析に基づいて9%に設定されていました。

ATOは以下の関連法規を考慮したうえで、当該利率が独立企業間原則に基づく利率を上回っていると判断し、この判断に基づき、CAHPLに移転価格更正通知を交付しました。

  • 1936年連邦所得税査定法第13節(オーストラリアの旧移転価格制度)
  • 1997年連邦所得税査定法細目815-A(2012年に制定された遡及法であり、2004年7月1日から2013年6月30日における、租税条約相手国との国際的な関連者取引に適用)

同裁判所は上訴を受けて、訴訟手続/法的事項の多数について考慮しました。かかる考慮事項には、以下が含まれます。

  • ATO調査官が課税に対して適切な権限なくして更正を行った影響
  • 第13節に基づいて課税がすでに行われた期間に対して、ATO長官が第815章に基づいて有効に更正を行うことができるかどうか
  • 憲法上で認められた議会の権限が遡及法細目815-Aには及ばない点を勘案して、第815章に基づく決定が有効かどうか

連邦裁判所の判事3人は、実質的に第一審の判事と同意見でした。同裁判所が考慮した点には、以下が含まれます。

  • オーストラリアの旧移転価格制度(第13節)の範囲、特に同制度における「対価」(consideration)を重点的に考慮。 同裁判所は当該利率だけでなく、場合によっては、担保の差し入れ、財務制限条項、又は親会社の保証も考慮に入れるべきであると解釈した。
  • 移転価格規則により求められている独立性の判断(independence assumptions)。 同裁判所は、当該融資契約に関わる当事者の判断は独立しているものの、借り手は当該多国籍企業から独立していないとの判断も考慮に含まれるとの結論を下した (すなわち、移転価格規則を適用するに当たっては、当該納税者が属す広義の企業グループについて、関連する特性を考慮に入れるべきである)。

同裁判所は、(仮定の)独立企業間シナリオにおいて、シェブロン(最終的な親会社)がかかる関連者間融資に対して独立企業間原則に基づく利率を決定することを目的として、 親会社の保証及び/又は必要な制限条項の形で、追加の保証を当該融資契約(CAHPLが他の保証を提供できなかった場合)に加えるべきであったと判断することが妥当であるとの結論に達しました。 かかる結論の結果、当該融資に適用される利率が大幅に引き下げられます。 特筆すべきは、CAHPLの属す企業グループから完全に独立した単独企業/孤児企業としてCAHPLをみなすべきではないと同裁判所が結論を下した点です。

シェブロンは、最高裁判所に上告する特別許可(special leave)を申請することができます。

影響

当該判決により、移転価格論争が関わるのは、関連者取引の価格評価だけに留まらないことが示されています。 かかる論争では、関わっている資産の特性を徹底的に分析し、何に対して価格を設定する必要があるかを正確に決定することになります。 そのためには、契約上の複雑な問いや証拠に関する問題点について考慮する必要があります。

当該判決によって、グループ内における資金提供とその他の関連者取引の双方に対して重要な影響を与える可能性があります。 それら重要事項には、以下が含まれます。

  • 同裁判所が第13節の規定において、「対価」という用語をより幅広くかつ柔軟に解釈 (合意に基づいて設定された利率または価格だけに留まらず、担保又は保証金も対価に含まれる可能性がある)
  • オーストラリアの移転価格税制における独立企業間原則を適用するに当たっての独立性の判断 (並びに、独立企業との取引を仮定する際、より広範な企業グループの方針に影響が及ぶ可能性)
  • オーストラリアの旧移転価格税制の適用対象である関連者取引において、より幅広い条件に厳しい監視の目が向けられる可能性 (将来の期間について非独立企業間取引を「再構築」するために、細目815-Bが2014年に将来に向かって導入された)

ATOは、細目815-Bに基づく有利息金融取引の取扱いに関して、「実務的なコンプライアンス指針」(Practical Compliance Guidelines) を近く公表すると示唆しているほか、無利息金融取引の取扱いに関する指針も追って発表するとしています。 また、オーストラリアの債務/資本に関する税制と移転価格税制の相互関係に関する通達も、今年中に公表される見通しです。

ATOは、シェブロンの事例と類似の特性を備える関連当事者間の金融取引に関して、改定更正通知を交付すると見込まれています。

かかる判決を鑑み、納税者は以下の対応を行うべきです。

  • 過去及び将来の関連者取引をレビューし、潜在的なリスクを伴う具体的な取引を特定する
  • 自社の内部取引をどう擁護するかについて、レビュー及び検討する。 納税者は特に、裏付けとなる価格分析の全てをレビューして、提供される資産に適正な価格が設定されるように万全を期す
  • 旧制度に基づいてレビューし、自社の見解をどう擁護するかを検討するとともに、移転価格の更正を受けたと仮定して、 その影響について考慮する。その際の考慮事項には、ATOから更正を受けた場合の延滞税、ペナルティ、租税条約相手国に対する二重課税排除のための申立てなども含まれる
  • 関連者取引の再構築、又はATOへの事前確認制度の申請など、選択可能な方法について検討する
  • 最高裁判所に上告されそうな案件をモニターする
  • 細目815-Bに基づく有利息金融取引の取扱いに関して公表される「実務的なコンプライアンス指針」は、 リスクが高い領域の取引を特定するうえで参考になるため、注意を怠らずにATOの動きを見守る

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