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米トランプ政権、NAFTA再交渉の詳細な交渉目的を発表
8月16日から第1回再交渉会合が開始へ

Japan tax alert 2017年8月1日号

概要

米国通商代表部(以下、「USTR」)は、北米自由貿易協定(以下、「NAFTA」)における再交渉の第1回目の会合を2017年8月16日から20日までワシントンDCで開くことを発表しました。 この会合は、2017年5月18日に交渉開始を通知する書簡(以下、「通知書簡」)が連邦議会(以下、「議会」)に送付されてから、「2015年超党派議会の貿易優先事項及び説明責任に関する法律(2015年TPA法)」で必要とされていた90日を経たことによって、開催が可能になったものです。 これにより、米トランプ政権がかねてから主張してきたNAFTA見直しの議論が本格化することになります。

再交渉の狙いと対象項目

トランプ政権は、NAFTA再交渉を「アメリカ国民との約束」とし、米国の輸出を促進することにより、米国の「北米における長期間の貿易不均衡」に対処することを重視しています。 この解消に向けた具体的な交渉内容として、USTRは2017年7月17日に、会合の開催に先立ち、NAFTA再交渉の「目的の概要(Summary of Objectives)」1を発表しました。 これによれば、「NAFTAが調印された時に存在していたアメリカは、今日のアメリカではない」とした上で、 「NAFTAは一部の者に新たな市場アクセスを提供した一方で、多数のアメリカの労働者にとって新たな問題を生み出した」とし、NAFTA再交渉の重要性を述べています。

通知書簡では、「多くの章が時代遅れであり、近代的な基準を反映していない」とし、例示としてデジタル貿易、知的財産、規制、国有企業、サービス、税関手続、衛生・植物検疫に関する措置、労働、環境及び中小企業を列挙していました。 それらに加え、今回の「目的の概要」には、非関税障壁(TBT)、投資、競争政策、紛争処理等が含まれており、広範な範囲が再交渉の対象となることが明らかになりました。

原産地規則の強化と求められる企業の対応

数多く列挙された再交渉の対象項目の中でも、特に注目すべきは原産地規則に関する部分です。 通知書簡では、原産地規則については触れられていませんでしたが、今回の「目的の概要」では言及がなされました。

原産地規則とは、特恵関税の対象となる産品を特定するため、物品の原産地(国籍)を決めるためのルールで、非原産材料を使用してNAFTA締約国で生産する場合、当該生産品の付加価値率や加工工程を確認する基準を用いて原産地の特定を行っています。

トランプ政権は、NAFTAの恩恵が「真に米国や北米で生産された製品」のみに与えられるよう原産地規則の「強化」を求めています。 これは、域内原産割合基準(RVC)の引き上げあるいは関税番号分類変更基準(CT)の厳格化という形で表れてくると考えられます。

企業は原産地規則の「強化」が現実のものとなれば、北米向けに生産している外国産部品の供給にも影響が出ることが考えられるため、NAFTA締約国内だけではなく、全世界的なサプライチェーンの見直しを迫られることになるでしょう。 例えば、自動車業界では、現在15人乗り以下の自動車のRVCは62.5%以上と規定されていますが、この割合が引き上げられた場合、部品の調達先の変更等が必要になる可能性があります。

また、通知書簡では、徴税回避や違反を防ぐためにNAFTA締約国が連携し対処することも明記されており、協定の遵守の執行がさらに重視されていることから、企業は自社のNAFTA利用手続と内部統制に対する評価を行うことが求められるでしょう。

貿易救済措置の発動要件緩和へ

「目的の概要」では、「貿易救済措置(Trade Remedies)」としてアンチダンピング税(AD)や補助金相殺関税(CVD)措置、セーフガードに関する見直しも言及がなされました。

ADやCVDについては、AD及びCVDの発動に関する二国間パネルによる紛争解決メカニズムを規定したNAFTA19章の廃止を目指すとされています。 NAFTA19章廃止が現実のものとなれば、これまで抑制的に行われてきた対カナダ及びメキシコに対するこれらの措置の発動件数が増加することが懸念されます。

セーフガードについては、措置発動につきNAFTA加盟国を適用除外することを撤廃することが盛り込まれました。 米国の思惑通り、NAFTA加盟国に対する米国のセーフガード措置の適用除外が撤廃された場合には、今後米国がセーフガードを発動した際に、カナダ及びメキシコの産品についても高い関税率が賦課されるリスクが出てくることとなります。

NAFTAの「近代化」

NAFTA再交渉の中には、協定を「近代化」する内容も含まれています。 例えば、関税評価や貿易円滑化に関しては、WTO協定の履行に向けた高い基準を設けることを謳っています。 具体的には、関税法や手続に関する情報を全てインターネットに公開し、透明性を高めることに加え、税関手続の簡素化、自動化等による業務上の負担軽減にも重点が置かれます。

このような「近代化」に向けた項目の中でも、特筆すべきなのは、事前の予想通り盛り込まれたデジタル貿易に関する分野です。 デジタルコンテンツ(例:ソフトウェア、音楽、ビデオ、電子書籍)に関税を賦課しない他、電送されるデジタルコンテンツに対する内国民待遇を与えることが目標として盛り込まれています。

トランプ政権がNAFTAの「近代化」を重視していることを踏まえると、これらの新たに恩恵をもたらしそうな変更箇所も確認することが望ましいと思われます。

再交渉プロセスへの参加

NAFTA加盟各国は、修正される可能性がある項目について、正式に産業界から意見を求めることとなりました。 「目的の概要」には、USTRは引き続き利害関係者(ステークホルダー)と協議すると繰り返し記載されています。 このような意見の提供は、再交渉プロセスを通じて提供することが出来ますが、交渉の立場が確立する過程で意見を提供すれば最も大きな影響力を及ぼす可能性があります。

しかしながら、企業による意見の提供には、まずNAFTAのどの規定・基準によって企業が恩恵を受けているのかを把握した上で、変更がされた場合の影響分析を事前に行うことが不可欠となります。 そして、当該影響分析の結果から導かれる個々の戦略に基づき、意見の提供方法を検討することが必要となってくるでしょう。

  1. USTR. "Summary of Objectives for the NAFTA Renegotiation". Retrieved 31/July/2017 from https://ustr.gov/about-us/policy-offices/pressoffice/ press-releases/2017/july/ustr-releases-nafta-negotiating

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