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日本を含む67の国・地域が二国間租税条約改定のための多数国間条約に署名

Japan tax alert 2017年6月16日号

エグゼクティブ・サマリー

2017年6月7日、日本を含む67の国・地域は、経済協力開発機構(OECD)がパリで主催した署名式典において、「税源浸食及び利益移転防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」に署名しました。 また、9の国・地域も近い将来に同条約に署名する意向を表明しています。 多数国間条約は、BEPSプロジェクト、とりわけ租税条約関連のミニマムスタンダードの実施に関して重要な意義を有します。 署名国・地域は、署名にあたり、対象租税条約(Covered Tax Agreements)として指定を希望する租税条約のリストを提出しました。 現段階では、署名国・地域が指定する対象租税条約のうち、その国・地域が追加又は変更を希望する特定の条項に合わせて1,100以上の租税条約が改定される見込みです。

署名国・地域は、対象租税条約のリストとともに、多数国間条約の様々な条項に関する留保事項(reservations:適用を留保する多数国間条約の規定)と通告事項(notifications:多数国間条約の適用対象とする租税条約及び規定のうち適用することを選択している一覧を通告すること)の暫定の一覧を提出しました。 多数国間条約に係る批准、承諾又は承認の証書が寄託されることにより、各国・地域の最終的な同条約の採択状況が定められます。 署名国・地域のリスト及び6月7日の時点での署名国・地域が提出した対象租税条約の概要、並びに留保事項及び通告事項を含む国別ファイルは、OECDのホームページで閲覧できます。

さらに、署名国・地域は、多数国間条約において、紛争解決に際し、BEPS行動14に含まれる強制的・拘束的仲裁制度の適用を選択することができます。 多数国間条約に署名した67の国・地域のうち、25の国・地域がこの強制的・拘束的仲裁制度を選択しました。

議論の詳細

背景

2015年10月、OECDは15のBEPS行動計画に関する最終レポートを発表しました。 最終レポートには、ミニマムスタンダード(minimum standards)、強化された国際基準(reinforced international standards)、 共通アプローチ(common approaches)など、様々なカテゴリーに分類される勧告が含まれています。

最終レポートの内、ハイブリッド・ミスマッチに関する行動2、租税条約濫用防止に関する行動6、恒久的施設に関する行動7、紛争解決メカニズムに関する行動14は租税条約の条項を対象としています。 これらの条項に関し、それぞれの国・地域が、租税条約に係る勧告を迅速かつ一貫性のある方法で実施できるようにするため、行動15において、多数国間条約策定の実現可能性について検討がなされました。 最終レポートでは多数国間条約策定の実現可能性及び必要性が認められ、同条約を策定するための特別委員会設置に関する指令が発令されました。

その指令に基づき、多数国間条約の策定が進められ、2016年11月に合意に至りました1。 多数国間条約の策定にあったては、OECD加盟国やG20諸国、その他の先進国及び途上国を含む約100の国・地域が参加しましたが、その参加国・地域に限らず、関心のある国・地域のすべてが同条約に署名することができるとされています。

さらに、多数国間条約には、特別な手続に則った上で、拘束的仲裁制度を既存の租税条約に取り込むことを可能にする条項も含まれています。 この条項は、多数国間条約の他の条項とは異なり、租税条約に関して拘束的仲裁制度を適用することを明示的に選択している国・地域間の租税条約にのみに適用されます2

多数国間条約は2017年1月1日以降に署名可能とされていましたが、今回の署名式典において初めて署名されました。 OECDは2017年後半に第2回署名式典を開催する予定です。

署名国・地域とオプション

今回開催された署名式典では、67の国・地域3が多数国間条約に署名し、9の国・地域4が同条約に署名する意向を表明する書簡に署名しました。 「多数国間条約に関するよくある質問(frequently asked questions)」によると、OECDは、67の署名国・地域が合計2,362の独自の条約を有しているとしており、このうち署名国・地域が追加又は変更を希望する特定の条項に合わせて1,103の租税条約が改定される予定です。

署名国・地域と非署名国・地域の間の1,149の条約が通告事項に載せられており、より多くの国・地域が今後数カ月内に多数国間条約に署名すると見込まれることから、今後、合意に至る租税条約の数が増えると考えられます。

なお、多数国間条約の批准、承諾または承認の証書が寄託されることにより、各国・地域の最終的な同条約の採択が定められるため、署名をもってその署名国・地域において同条約の採択状況が確定したものではない点に留意が必要です。

さらに、25の署名国・地域5が強制的・拘束的仲裁制度の適用に署名したことから、OECDは、この条項が150以上の既存の租税条約に取り込まれると見込んでいます。

「多数国間条約に関するよくある質問」によると、OECDは、署名国・地域の選択状況から、多数国間条約が現在対象としている1,100のすべての条約に主目的テスト (PPT:Principle Purpose Test)6が適用されることを示唆しています。 なお、アルゼンチン、アルメニア、ブルガリア、チリ、コロンビア、インド、インドネシア、メキシコ、ロシア、セネガル、スロバキア共和国及びウルグアイの12の署名国がPPTに関する条項を簡便な特典制限条項で補完することを選択しています。

日本の対応

日本が本条約の署名時に提出した本条約の適用に関する選択についての「暫定の一覧」の概要は、以下のとおりです。 なお、「暫定の一覧」の概要は財務省のホームページ(BEPS防止措置実施条約の適用に関する我が国の選択の概要(暫定版))で閲覧できます。

  • 日本が本条約の適用対象として選択している租税条約の相手国・地域
    英国、ドイツ及びフランスを含む35の国・地域7
  • 日本が適用することを選択している多数国間条約の規定
    1. 課税上存在しない団体を通じて取得される所得に対する条約適用に関する規定(第3条)
    2. 双方居住者に該当する団体の居住地国の決定に関する規定(第4条)
    3. 租税条約の目的に関する前文の文言に関する規定(第6条)
    4. 取引の主たる目的に基づく条約の特典の否認に関する規定(第7条)
    5. 主に不動産から価値が構成される株式等の譲渡収益に対する課税に関する規定(第9条)
    6. 第三国内にある恒久的施設に帰属する利得に対する特典の制限に関する規定(第10条)
    7. コミッショネア契約を通じた恒久的施設の地位の人為的な回避に関する規定(第12条)
    8. 特定活動の除外を利用した恒久的施設の地位の人為的な回避に関する規定(第13条)
    9. 相互協議手続の改善に関する規定(第16条)
    10. 移転価格課税への対応的調整に関する規定(第17条)
    11. 義務的かつ拘束力を有する仲裁に関する規定(第6部)
  • 日本が適用しないことを選択している多数国間条約の規定
    1. 二重課税除去のための所得免除方式の適用の制限に関する規定(第5条)
    2. 特典を受けることができる者を適格者等に制限する規定(第7条)
    3. 配当を移転する取引に対する軽減税率の適用の制限に関する規定(第8条)
    4. 自国の居住者に対する課税権の制限に関する規定(第11条)
    5. 契約の分割による恒久的施設の地位の人為的な回避に関する規定(第14条)

なお「暫定の一覧」において、日本が適用する(又はしない)ことを選択している多数国間条約の規定のうち個別の条項については、適用されない (又はされる)ものがありますので、個別条項の適用関係は、OECDが公表する「国別暫定の一覧(日本)」にて確認が必要となります。

今後の影響

67の国・地域が多数国間条約に署名した結果、1,100の租税条約が改定され得るということは、国際課税の歴史において前例のない出来事となりました。また、この出来事は租税条約に基づくBEPS勧告の実施においても重要な意義を有します。

多数国間条約は、5つの国・地域が同条約の批准、承諾または承認の証書を寄託した後に発効されますが、批准手続き中に、国・地域の選択は変更される可能性があります。特定の二国間租税条約に関しては、租税条約の両当事者が多数国間条約の批准、承諾または承認の証書を寄託し、一定の期間が経過した後にのみ発効します。なお、その期間は規定によって異なります。例えば、源泉徴収税に関する規定は、いずれの締結国においても最終的にその批准を通告した年の翌年1月1日に発効されます。したがって、基本的には2019年以降の適用が見込まれますが、一部の二国間租税条約では、2018年から早期に適用される可能性もあります。

巻末注

  1. 2016年12月2日付EY Global Tax Alert「OECD releases multilateral instrument to implement treaty related BEPS measures on hybrid mismatch arrangements, treaty abuse, permanent establishment status and dispute resolution」をご参照ください。
  2. 2016年12月2日付EY Global Tax Alert「Mandatory Binding Treaty Arbitration under OECD's Multilateral Instrument」をご参照ください。
  3. アンドラ、アルゼンチン、アルメニア、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、ブルキナファソ、カナダ、チリ、中国、コロンビア、コスタリカ、クロアチア、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、エジプト、フィジー、フィンランド、フランス、ガボン、 ジョージア、ドイツ、ギリシャ、ガーンジー、香港、ハンガリー、アイスランド、インド、インドネシア、アイルランド、マン島、イスラエル、イタリア、日本、ジャージー、韓国、クウェート、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、メキシコ、 モナコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、パキスタン、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、サンマリノ、セネガル、セルビア、セイシェル、シンガポール、スロバキア共和国、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、ウルグアイの67の国・地域。
  4. カメルーン、コートジボワール、エストニア、ジャマイカ、レバノン、モーリシャス、ナイジェリア、パナマ、チュニジアの9カ国。
  5. アンドラ、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、フィジー、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、日本、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ニュージーランド、ポルトガル、シンガポール、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、英国の25カ国。
  6. 2015年10月20日付EY Global Tax Alert「OECD releases final report under BEPS Action 6 on preventing treaty abuse」をご参照ください。
  7. アイルランド、イスラエル、イタリア、インド、インドネシア、英国、オーストラリア、オランダ、カナダ、韓国、クウェート、サウジアラビア、シンガポール、スウェー デン、スロバキア、チェコ、中国、ドイツ、トルコ、ニュージーランド、ノルウェー、パキスタン、ハンガリー、フィジー、フィンランド、フランス、ブルガリア、ポーランド、ポルトガル、香港、マレーシア、南アフリカ、メキシコ、ルクセンブルク、ルーマニアの35の国・地域。

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