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米トランプ政権、NAFTA再交渉の意向を通知

Japan tax alert 2017年5月26日号

概要

米通商代表部(以下、「USTR」)のロバート・ライトハイザー代表は連邦議会に対し、トランプ政権が北米自由貿易協定(以下、「NAFTA」)の再交渉に入るとの意向を通知しました。民主、共和両党の議会院内総務宛ての2017年5月18日付の書簡で示されたもので、この結果、「2015年超党派議会の貿易優先事項及び説明責任に関する法律(2015TPA法)」の条項に従い、90日後にNAFTA再交渉を正式に始めることができます。この「90日間通知義務」により、カナダ、メキシコとの正式交渉が今年8月にも始まる可能性があります。

詳細

再交渉の対象となる項目

トランプ政権はこの書簡の中で、「NAFTA交渉が妥結して25年になったが、この期間、私たちの経済と企業はかなり変化した一方、NAFTAはそうではない」と指摘。 その上で、以下の項目に関する「新たな条項」を盛り込むなど、現状に合わせた変更の必要性を強調しています。

  • デジタル貿易
  • 知的財産権
  • 規制慣行
  • 国有企業
  • サービス
  • 通関手続き
  • 衛生・植物検疫(SPS)措置
  • 労働
  • 環境

また同書簡では、より厳格な執行を求めており、「私たちの貿易協定に基づき、貿易パートナーが示したコミットメントを効果的に実施するとともに、積極的に執行することが貿易協定の成功には極めて重要であり、それはNAFTAでも同様である」としています。 また同書簡は、トランプ政権が「米国の消費者、企業、農業従事者、牧場経営者、及び労働者のために時宜にかなった実質的な成果がもたらされるようにこれらの交渉の妥結に向けて取り組む」と主張しています。

注目されるのは、同書簡が3月に公表された長さ8ページの通商草案に比べてかなり短い上、あまり詳細ではなく、交渉目的にも詳しく言及していないことです。 より詳しい目的は、議会や国民との協議を待って示される見込みです。

企業の対応

NAFTAは23年間にわたり、米国、カナダ、メキシコにおける貿易と投資に関するルールを設定し、現行ルールによるNAFTAの恩恵を期待してサプライチェーンが統合されました。 多くの企業は、特定の条項に結びついた恩恵を認識しつつ、NAFTAの全体像を長い間見直すことがありませんでした。 そのため、NAFTAの全体像を的確に把握することが、今後の修正に伴う影響を評価するために非常に重要です。 新たに必要とされる項目が追加されるだけでなく、多くの項目が見直されることが予想されます。 企業は自分たちに現在恩恵をもたらすNAFTAの側面だけでなく、新たに恩恵をもたらしそうな変更個所も確認することが望ましいと思われます。 協定の遵守と執行をさらに重視することで、輸出入業者はNAFTAの手続きと内部統制の評価がしやすくなるでしょう。

原産地規制

NAFTAの原産地規則の修正は5月18日付の書簡では具体的に言及されませんでしたが、通知草案では言及されており、加盟3カ国の企業及び政府の関係者が広範な議論を進めています。 NAFTAの原産地規則が修正されれば、域内貿易に携わる多くの企業に相当な影響を与える可能性があります。 原産地規則は、関税0%でNAFTA域内の取引が可能となるかを決定づけます。 工業製品の場合、適用される原産地規則は、一般的に域内付加価値率や加工度合を基準としています。 原産地規則は品目別に決まっており、製品によって異なります。

今回の再交渉では、米国は原産地規則の「厳格化」し、製品への関税優遇措置を受けるのに必要な域内原産割合について、 例えば、製品の製造に使われる域内部品の比率を引き上げるよう要求することが予想されます。 裏を返せば、NAFTAの恩恵を受けられるように製品を製造する際に米国産を中心に原産品の利用拡大を促す狙いがあります。 NAFTA加盟国はこうした修正を受け入れるかもしれませんが、問題は特定のルールがどの程度、強化される可能性があるかということです。 そのため、現在NAFTAに基づく関税ゼロの待遇に依存している企業は、製品の原産性を見極めて、より厳しいルールが課されるシナリオを策定することが大切です。

例えば、現行ルールでNAFTAの関税ゼロの待遇を受けるために50%の域内原産割合(RVC)が必要であるところ、この要件が60%に引き上げられた場合どうなるのでしょうか。 62.5%ならどうでしょうか。 あるいは、現行の原産地規則が北米で発生する加工作業の度合いを評価する際、輸入部品が最終製品に組み入れられる時点で関税分類が変更される程度で決める(「関税分類番号変更基準」と呼ばれる)ならば、これに加えて品目別付 加価値基準も義務化することによってどのような影響が出るのでしょうか。 関税分類番号変更基準と品目別付加価値率がともに必要なら、製品は引き続きNAFTAの関税ゼロの扱いとなるのでしょうか。 起こり得る修正による影響を理解すれば、企業は現行の待遇を「維持する又は改善させる」ための戦略を練ることができます。 この点を理解すれば、企業はNAFTA加盟各国の交渉目的を視野に入れながら、どうすれば加盟3国のどの国とも最もうまく取引を進めるのか計画を進めることが可能です。

プロセスへの参加

NAFTA加盟各国は、修正される可能性がある項目について企業から意見を求めますが、メキシコは2月、米国からのNAFTA改正の要請を見越して公開協議を始めました。 USTRはNAFTA交渉の方向性、重点項目、内容について国民からの意見を求める連邦官報を近く公表すると発表しました。

こうしたプロセスを通じて意見を提供することができますが、交渉の立場が確立する過程で意見を提供すれば最大の影響力を及ぼす可能性があります。 例えば、TPAプロセスの一環としてUSTRは、交渉開始の30日前により詳細な交渉目的を公表します。

企業はこの機会を利用して、特定の修正が有益か、問題になるのか、それとも受け入れ可能か自身の意見を表明することが推奨されます。 同時に、企業は交渉の進展に応じて引き続き意見を提供できるような連絡ルートの確立も検討されることをお勧めします。 他の自由貿易協定交渉でも米国、メキシコ、カナダはこうしたプロセスを通じてステークホルダー(利害関係者)との関与を維持してきました。 NAFTAの特徴をしっかりと理解し、こうしたプロセスの間も関与を続ける企業は、自分の関心事項に耳を傾けてもらうための機会が得られるかもしれません。


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