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金融機関による海外クロスボーダーM&Aの留意点
タックスヘイブン対策税制、移転価格税制、BEPS対策について

Japan tax alert 2017年3月22日号

昨今、国内市場の縮小を背景にクロスボーダーM&Aが増加していますが、その中でも銀行、保険会社等の日本の金融機関が海外の金融機関を買収する「金融機関によるクロスボーダーM&A」が増加しています。特に、日本の金融機関によるM&Aの場合、業種的に日本のタックスヘイブン対策税制が重要な論点となる傾向があります。また、クロスボーダー取引が生じることから移転価格税制も重要となります。さらに、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)に係る対応にも留意する必要があります。

海外から自国への対内投資の促進は、おおよそ全ての国にとって基本方針となります。 ただし、半導体等の先進工場や配送センターといった大規模施設の誘致の際には、流通インフラの整備を含めたコストや時間がかかります。 バミューダやケイマンといった国は、国土やインフラが限られていることから、コスト及び時間的メリットを踏まえて、関連する規制や税制を緩和して(大規模施設や人員を必要としない)金融機関を誘致する傾向にあります。 バミューダやケイマンに銀行や保険業が多いのはそのような理由からです。

I. 日本のタックスヘイブン対策税制の適用

バミューダやケイマンのような低税率国の法人を買収した場合又は、低税率国を含む企業グループを買収した場合、買収後は日本のタックスヘイブン対策税制の適用を受ける可能性があります。 金融機関は大規模施設や多数の人員を必要としないため、必要となる事業実態が少なく、結果として、日本のタックスヘイブン対策税制の適用を受けるリスクが一般事業会社より高くなることが一般的です。

タックスヘイブン対策税制は、税金のない国や税率の低い国(いわゆるタックスヘイブン)に所得を移転することによる租税負担軽減の乱用を防ぐために導入されたもので、低税率国に所在する一定の外国法人の所得(適用除外要件を充足する場合には、デミニマス基準を超える資産性所得)が、親会社である内国法人の所得に合算して課税されます。 なお、2017年税制改正大綱においては、タックスヘイブン対策税制について大幅な改正が予定されており、特に、事業実態のない会社(いわゆる「ペーパーカンパニー」)や、総資産のうち一定の受動的所得の占める割合が高い会社(いわゆる「キャッシュボックス」)は、租税負担割合が30%以上でない限り合算課税の適用を受けるというルールはこれまでに無いコンセプトです。 金融機関の子会社は、一般事業会社に比べて事業実態が乏しい又は受動的所得の割合が高い可能性が考えられ、これらの改正の影響に留意する必要があると考えられます。 適用除外基準を充足した場合においても合算対象となる所得(従来の「資産性所得」)も、その範囲が拡大されており、この点にも留意が必要です。

タックスヘイブン対策税制は租税負担回避の乱用を防止することを目的にしているところ、金融機関の場合、海外の制度又は規制上、通常とは異なる組織形態を取らざるを得ず、その結果、図らずもタックスヘイブン対策税制の対象となってしまうケースがありました。 昨今の税制改正ではそのような状況に対応するため、以下のような救済的措置が導入されています。

2016年度税制改正

英国ロイズ市場において保険業を営む法人の適用除外基準に係る特例措置

2017年度税制改正大綱

現地国に充分な事業実態を有する航空機リース会社の適用除外基準充足の可能性
特定の再保険スキームに対する適用除外基準に係る特例措置等

最後に、タックスヘイブン対策税制が適用されるかどうかは、当該外国法人の各事業年度終了時の現況によって判断することになります。 そのため、外国法人を外国法人の事業年度の途中に取得した場合においても、外国法人の事業年度全体(買収時点から事業年度終了時までではない)について、タックスヘイブン対策税制が適用されることになる点にも留意が必要です。

II. 移転価格税制に係る税務リスク分析、移転価格税制に係る文書化の整備

銀行、証券、保険業のうち小口ビジネス、いわゆるリテールビジネスを除いては、金融機関は比較的少人数でビジネスを展開します。 また、製薬や自動車をはじめとするメーカー等とは異なり、その事業を展開する上で重要な特許権といった無形資産を有しないことも多いため、金融機関は拠点間での利益配分について(特に税務上の観点から)客観的な基準を提示できないケースが多くあります。 加えて、金融機関は規制や税制を含むビジネス環境の変化に応じて、本拠地及び納税地そのものを変更することも多く、結果として金融機関は拠点間での利益配分や納税地移転の妥当性について各国税務当局(例:日本vs.海外、あるいは海外vs.海外)により移転価格税制の適用を受けるケースが散見されます。 移転価格税制の適用を受けた場合、国内法上の二重課税に対する救済手続きの適用を受けるか、租税条約に基づく二国間での相互協議を通じた対応的調整が考えられます。 通常、二重課税の排除という意味では後者の方が望ましいですが、相互協議実施は租税条約の存在が前提となっています。 前述のように金融機関は租税条約の締結されていない低税率国に所在するケースも多く見られます。 例えば、銀行や再保険ビジネスはバミューダ-米国間で実施されることが多く、利益配分について米国課税当局からチャレンジを受けた場合には(二国間での調整なく)米国課税当局から一方的に課税を受けるといった重大な不利益が考えられます。

このように金融機関は、そのビジネスの特性及び(租税条約が無い)低税率国に所在することから移転価格税制リスクが高く、そのため機能やリスクに応じた利益配分ポリシーを移転価税制に充分留意して文書化し、特に高税率国の相手国からのチャレンジに備える必要があります。

その他、金融機関では金融庁対応を含め様々な管理監督費用が発生し、そのような費用を現地子会社に対して請求できるかについても大きな問題になります。 当該管理監督活動が現地子会社において「経済的又は商業的価値」を有する場合、当該活動は親会社による現地子会社に対する役務提供に該当し、現地子会社に対して対価を請求することが求められます。 一方で、当該管理活動が、「株主活動」や「重複活動」に該当する等、現地子会社において「経済的又は商業的価値」を有しない場合、当該活動に係る費用は親会社において負担することとなるため、ルールの設定とそのモニタリングが重要となります。 特に、M&A後には買収対象子会社に係る管理監督費用が増加しますが、そういった費用が請求対象になるかの検討が重要です。

III. BEPSを中心とした国際税務の急速な変化への対応

BEPSにより、特に金融機関が展開している低税率国において対応が求められており、低税率国をめぐる世界的な動きが最近顕著となっています。 2016年4月にワシントンで開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議では、OECDに対して「税の透明性に関する非協力的地域を特定するための客観的基準」を作成することが要請されており、2016年6月に京都にて開催されたOECD租税委員会の本会合では、以下の基準について議論がなされました。 本基準に基づく「税の透明性に関する非協力的地域」のリストが、2017年7月にG20首脳に提示される見込みで、その中には金融機関の展開国が含まれる可能性があります。

『税の透明性に関する非協力的地域』の基準
  • 下記の3基準のうち、2つ以上を満たさない国・地域、あるいは、
  • OECDグローバル・フォーラムによる税の透明性と情報交換に関するレビューにおいて不遵守相当とみなされた国・地域
基準1 基準2 基準3
OECDグローバル・フォーラムのレビュー評価が、「概ね遵守」あるいは「遵守」である 共通報告基準(Common Reporting Standard: CRS)に基づく税務当局間の金融口座情報の自動的な交換を2018年までに実施することを約束している 税務行政執行共助条約(多国間条約)へ署名している

非協力的地域として特定されると、日本や他の国においてタックスヘイブン対策税制(又は同等の課税ルール)により合算課税の適用を受ける、あるいは移転価格税制による日本や相手国による課税強化リスクが考えられます。 加えて、特定された国が特定を免れるためにこれまでの方針を変えて税率を上昇させる、又は海外への情報開示に努めるといった改正が行われる可能性があります。 BEPSで必要となるマスターファイル、ローカルファイル、国別報告書といった文書についても特に低税率国に係る情報開示に関しては各国税務当局から不必要なチャレンジを受けないような記載方法についての検討が必要です。

まとめ

このように、金融機関によるクロスボーダーM&Aは金融ビジネスを理解しつつ、日本及び海外各国の最新の税制に留意し、税務コンプライアンス及び実効税率を管理していく必要があります。 特に、日本のタックスヘイブン対策税制の適用の有無については、業種の特殊性から金融機関全体の実効税率に影響を与える可能性があるため、ストラクチャリング時の重要な課題と考えられます。 M&Aに際しては想定される実効税率を考慮した将来のキャッシュフローに基づいて買収価格を決定することも多いため、実効税率の変化は企業価値に大きく影響を与える可能性があります。さらに、M&A後の税務として、(低税率国との間の)利益配分、管理費用請求に係る移転価格税制への対応が必要となります。これら金融機関を取り巻く国際税務分野はBEPSによって急速に変化しておりますので、金融機関に係る国際分野に強い専門家のサポートを受けることも効率的だと思われます。


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