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EU離脱交渉に関する英国首相の方針発表及び英国最高裁判決

Japan tax alert 2017年2月8日号

メイ首相は2017年1月17日、待ち望まれていた演説の中で、EU離脱交渉に関する英国の12の優先事項を明らかにしました。これまでEU関税同盟への参加継続と同様、単一市場へのアクセス維持と移民管理との間の緊張関係の解消が未解決の 重要な政治課題でした。首相はこの双方の点に言及したほか、それ以外の多くの重要事項についても方針を表明しました。

単一市場への参加について

メイ首相は、英国が優先事項として、欧州連合(EU)と大胆かつ野心的な自由貿易協定の締結を求めていくことになると述べました。この協定は、「英国とEU加盟国間におけるモノとサービスの貿易を最大限自由にすることを可能とすべきです。英国企業は、欧州市場との貿易及び欧州市場内の事業展開において最大限の自由を与えられるべきですし、欧州企業も英国内において同じことができるようにすべきです」。

首相は、提言している内容が単一市場メンバーとしての残留を意味するものではないと明言しました。また、メンバーであるということは「4つの自由」(モノ、資本、サービス、人の移動の自由)を認めることであり、欧州司法裁判所の果たす役割を受け入れることであると、欧州の首脳陣が何度も述べてきたということを指摘しました。

英国は単一市場の一員ではなくなるため、「EU予算に巨額を拠出する」必要はもはやありません。しかし、メイ首相は、英国が参加したいと考える特定の欧州プログラムが一部存在し、「妥当な金額」を負担する可能性があることを確認しました。ただし、単一市場へのアクセス維持のために、妥当な金額を負担することもあるかどうかについては言及しませんでした。

関税同盟への参加について

メイ首相は、英国が独自の貿易協定を交渉できるようにしたいと述べました。その一方で、欧州との無関税貿易やEU域内の貿易に関わる摩擦が最小限であることを望むとの意向も示しました。

したがって、首相は、英国がEUの共通通商政策(CCP)には与せず、EUの対外共通関税には縛られないことを希望しています。EU関税同盟のこうした要素は、英国が他国と独自の包括的な貿易協定を締結することを妨げる要因となります。しかし、首相は、EUとの関税協定の締結を望んでおり、これがまったく新しい関税協定となる可能性があります。つまり、何らかの方法でEU関税同盟の準加盟国となること、あるいは、EU関税同盟の一部規定についての署名国であり続けることなどが考えられます。

暫定規定について

メイ首相は、EU離脱プロセスとして割り当てられた期間内に貿易協定の大枠を確定したいとの意向を示した一方で、規則が一夜にして変わる「崖っぷち」の状況は回避したいとの考えも併せて表明しました。したがって、首相は、「無制限」の移行期間を求めているわけではありませんが、経済の一部セクターにおける混乱を最小化するために、個々に暫定的な協定を結ぶこともあり得ると述べました。首相によれば、段階的な移行プロセスを設けると、企業は新しい取決めに対して計画し、準備する十分な時間を得ることができます。暫定規定で対象となる可能性がある問題としては、移民の管理、関税制度又は金融サービスに関する将来的な法律上・規制上の枠組みなどがあります。新しい取決めに段階的に移行するために必要な期間は、それぞれの問題によって異なる可能性があります。また、こうした暫定的な取決めは、交渉事項になる公算が大きいことも首相は認めました。

EUとの継続的な関係について

首相は、英国が今後も欧州の良き友であり良き隣人であり続けたいと強調しました。同時に、EUを離脱する英国を罰し、他国が同じ道を選ぶことを阻止するために、懲罰的な対処を求める声が一部で上がっていることに関する認識も示しました。首相は、英国がそうしたやり方を容認しないと述べたほか、「英国にとって悪い条件の取引をするくらいなら、何も取引しないほうがましだ」と明言しました。

首相はまた、英国が引き続き欧州と貿易し、世界中の国々と自由に貿易協定を結ぶことができること、並びに「競争力のある税率を設定し、世界有数の優良企業や有力投資家を英国に引き寄せる政策を採用する自由がある」ことを明確に指摘しました。

また、数日前に財務相が行った発言を繰り返し、単一市場へのアクセスから英国が排除されるのであれば、英国の経済モデルの基盤を見直す自由があることも強く打ち出しました。

議会の関与について(最高裁の判決)

メイ首相による今回の方針発表の時点では、EU基本条約(リスボン条約)第50条を発動するプロセスに関する最高裁判決は未だ出ておりませんでしたが、首相は判決に先立ち、英国・EU間の最終合意が発効する前に、政府が議会の上下両院で承認決議を求めることを確認しました。

2017年1月24日、英国の最高裁はEU離脱のために政府が計画していたリスボン条約第50条を発動する手続きについて判 決を下しました。英国政府は、国王大権に基づき内閣は議会の承認なくして第50条を行使できると主張しておりました。しかし、最高裁は8対3の多数決により、第50条を発動してEUを離脱するには議会の立法が必要であるとして、一審の判決を支持しました。立法がどのような形になるのかは議会が決定することとなります。最高裁が強調したように、英国がEUを離脱すべきか、又は、いつ離脱すべきかについては裁判所の問題ではないということに留意することが重要です。判決はEUを離脱するという決定を実施するのに必要な法的手続きにのみ限定されています。政府は判決後、1月26日に、議会の承認及び合法的に第50条発動するための直截簡明なEU離脱法案を議会に上程しました。

第50条に関する政府の控訴を最高裁が棄却したことで、EU移民制限をめぐる不確実性が解決されたことにはなっていないことに留意が必要です。実際、英国で現在勤務しているEU国籍の国民、及びEU離脱後に従業員をEUから英国(及びその逆)に赴任させることを望んでいる雇用主には、未だに大きな不確実性が残っています。したがって、英国で従業員を雇用している英国子会社等の日本の親会社は、EU離脱後、EU国籍の国民が対象となる移民法令を政府が発表した時に、その影響を即座に評価できるように情報収集及び従業員の分析を継続する必要があります。

グローバルな英国というビジョン

国民投票は、英国国民が真にグローバルな英国の構築を選んだ瞬間であるという見解を強く打ち出したうえで、メイ首相は、英国を今まで以上に強く、より公正で、さらに一致団結し、もっと海外に目を向ける国にしたいと説明しました。首相が提唱しているグローバルな英国は「欧州のパートナーたちの最良の友人であり隣人」であると同時に、「世界へと踏み出して旧き友や、新しき友とも同じように関係を築く国」です。

国際的な人材に対する門戸開放は、英国の最も際立つ資産の一つであり続けなければならず、グローバルな英国は将来に目を向ける国でなければなりません。このことは、英国が科学とイノベーションにとって世界トップクラスの地であるということを意味しており、また、科学、研究及び技術的に重要な取り組みにおいて連携し続けることを約束する合意も歓迎すると首相は発言しました。

次の段階

メイ首相は、3月末までにEU基本条約第50条を発動することを確認しました。すなわち、英国は遅くとも2019年3月までにEUを離脱することになります。

首相はまた、「欧州共同体法」(英国の欧州連合加盟を実現するために採られた法的措置)を破棄する欧州共同体法廃止法案(Great Repeal Bill)を次期議会に提出することも確認しました。

この演説に伴い、政府の優先事項に対する企業の認識がより明確になりました。しかし、首相が明言している通り、今後もなお多くの交渉が行われます。加えて、それら交渉の最終結果がどうなるかは当面不透明です。

したがって各企業は、メイ首相の演説を受け、起こりうる問題や対策への取り組みに着手する必要があります。政府が公表した優先事項を織り込み、可能性のあるシナリオに沿って実行プランを策定するとともに、交渉の最終結果を問わず、事前に行っておくことが望ましい事柄を実行していかなければなりません。


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