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シンガポール税務当局、2017年移転価格ガイドラインを公表

Japan tax alert 2017年2月3日号

エグゼクティブ・サマリー

2017年1月12日、シンガポール内国歳入庁(以下、「IRAS」)は、移転価格ガイドラインの改訂版(以下、「2017年移転価格ガイドライン」)を公表しました。当該2017年移転価格ガイドラインの主な特徴は、独立企業間原則やリスク重視に関する追加ガイダンス、移転価格文書に含める追加情報要件、相互協議手続き(以下、「MAP」)及び事前確認(以下、「APA」)制度の改定、関連者間の金銭貸借取引に係る指針スプレッド、つまり「セーフハーバー」の導入などになります。

2017年移転価格ガイドラインは、経済協力開発機構(以下、「OECD」)の「税源浸食と利益移転(以下、「BEPS」)」プロジェクトにおけるミニマム・スタンダードに盛り込まれた行動計画5、13及び14に関して詳細に示しています。なお、2016年6月、シンガポールはBEPSのミニマム・スタンダードの導入に関する見解を示しています。

本タックスアラートでは、2017年移転価格ガイドラインで導入された主な変更点や特徴を解説します。

詳細な解説

独立企業間原則と機能分析

IRASは、BEPS行動計画8~10に準拠する利益を生み出す実質的な経済活動が行われ、価値が創造される場所において、利益に対して課税されるべきであると明確に述べており、独立企業間原則の順守を改めて表明しています。

独立企業間原則の適用については、IRASは機能分析におけるリスク要因に関してさらに明確化しており、リスクの引受けとリスクの負担・管理能力との区別が一段と強調されています。そのため、リスクを引き受け、そのリスクを管理している納税者は、通常の事業活動の1つを行っているのみの納税者と比較して、より大きな利益を獲得する権利があるとしています。IRASは、リスクの管理及びリスク引受けに係る財務上の負担能力の解釈に関して、当該ガイドラインにおいて例示して説明しています。

移転価格文書の追加情報要件

シンガポールとOECDの移転価格文書に係るアプローチとの間には依然として乖離が生じていますが、IRASは、シンガポールの移転価格文書を、OECDのマスターファイル及びローカルファイルに係る要件と整合させようとしています。

国別報告書(以下、「CbCR」)

IRASは、納税者がシンガポール多国籍企業(MNE)の最終親会社である場合には、移転価格文書に加えて、CbCRの提出が義務付けられる可能性があることを明示しています。CbCR要件に係る詳細は、CbCR e-Tax Guideをご参照ください1

移転価格文書に含める追加情報

以下の情報及び書類がリストに追加されています。

  • 国別の所得配分に関するグループの既存のユニラテラル(一国間)APA及びその他の税務裁定
  • IRASが当事者でない既存のAPA及びその他の税務裁定の写し
  • 納税者が行った価格調整や比較可能性調整の正当な理由に関する文書

移転価格文書作成の免除

移転価格文書作成の免除に以下の項目が追加されました(これらに限定されません)。

  • 関連者間の金銭貸借取引に対するスプレッドの適用(下記参照)
  • 100万シンガポールドル(70万米ドル)を上回らない保証に係る収入及び費用

さらに、移転価格文書作成の免除を判断するための関連者間 の取引価額基準、つまり関連者間取引の各カテゴリーの取引価 額基準値に関して、完全なパススルーコストは関連者間取引の カテゴリーごとの価額の総計に含められるべきであると明確化 されています。

APA制度及びMAP制度

ユニラテラルAPA制度の変更

BEPS行動計画5に従い、以下の税務管轄区域との間でIRASによるユニラテラルAPA情報2の自動的交換が行われます。

  • 納税者が行う取引であり、その取引がユニラテラルAPAの対象取引になっている場合、その取引相手となるすべての 国外関連者が居住する税務管轄区域
  • 納税者の最終親会社及び直近の親会社が居住する税務管轄区域

自動的情報交換は、租税条約又は情報交換文書が締結されているなど、一定の条件を満たすことが条件となっています。

以下の期間に発行されたユニラテラルAPAについては、2017年12月までにユニラテラルAPAに係る情報交換が行われ ます。

  • 2012年1月1日以降に発行され、2015年1月1日時点で有効なユニラテラルAPA
  • 2015年1月1日から2017年3月31日までに発行されるユニラテラルAPA

2017年4月1日以降に発行されるユニラテラルAPAについては、合意日から3カ月以内に情報交換が行われます。

APA制度のロールバック(遡及適用)期間の明確化

バイラテラル(二国間)APA又はマルチラテラル(多国間)APAについて、APAの遡及年数は、IRASの裁量により個別に決定されます。

MAP及びAPAのガイダンスに関するその他の変更

納税者が外国税務当局による移転価格調査の結果を一方的に受け入れることを選択する場合には、当該移転価格調査から生じる二重課税を排除するためのIRASと当該外国税務当局との間の公平な交渉が困難になる可能性があります。

さらに、シンガポールの審判所や裁判所の命令に基づいて法的又は司法上の手続きを通じて問題が解決された場合、IRASがシンガポールの審判所や裁判所の決定と異なる移転価格調整を行う可能性は低いと言えます。

IRASは、納税者から提出された申請書類の受領後24カ月以内に、MAP申請を処理することを目標としています。

したがって、納税者は、各々の居住国の国内税法に基づいて二重課税やその他の問題を解決するための様々な救済方法を利用できますが、遡及的又は将来的な税調整など、現時点での決定が過去や将来に及ぼす影響を慎重に考慮する必要があります。

関連者間の金銭貸借取引に対する指針とするスプレッドの導入

IRASは、2017年1月1日以降に行われる関連者間の金銭貸借取引に対して指針とするスプレッドの適用を導入しています。指針とするスプレッドを適用できる15百万シンガポールドル(約10.6百万米ドル)未満の関連者間の金銭貸借取引については、納税者は移転価格文書を作成する必要がありません。また、指針とするスプレッドを適用できる取引に関しては、移転価格文書作成の可否を判断するに際して、関連者取引の合計金額から除外することが出来ます。

指針とするスプレッド3は、15百万シンガポールドル未満の関連者間の金銭貸借取引にのみ当該金銭貸借取引が行われる時点で適用されます。なお、2017年1月1日から2017年12月31日までの期間においては、250ベーシスポイント(2.50%)の指針スプレッドを適用することが出来ます。

しかしながら、固定金利及び変動金利のスプレッドに適用する基準指標(例えば、SIBOR(シンガポール銀行間取引金利)又はLIBOR(ロンドン銀行間取引金利))に関しては、納税者が決める必要があります。

しかし、納税者は、固定金利型及び変動金利型の金銭貸借取引に対してターゲット営業利益率を適用するために、基準指標金利(例えば、シンガポール銀行間取引金利(SIBOR)、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)など)を決める必要があります。

固定金利の金銭貸借取引の場合、IRASは、適切なスワップレートを基準指標として、適用することがあります。シンガポールドル建ての固定金利の金銭貸借取引の場合には、シンガポール国債の利回りを基準指標として適用することも考えられます。

影響

2017年移転価格ガイドラインは、即時発効となります。

納税者は、追加情報要件や新たなリスク重視に関する指針と合致する移転価格同時文書の管理・保持を行うことを含め、移転価格のガイダンスを引き続き順守し、シンガポールにおける移転価格の枠組みに関し、今後の変更点を注視する必要があります。

巻末注

  1. IRASは2016年10月10日に、国際的に事業展開をし、年間連結売上高が11億2500万シンガポールドル(約7億9500万米ドル)を超えるシンガポールを税務上の居住国とするMNEを対象として、CbCRに係るガイドライン(e-Tax Guide)を公表しました。その後、IRASは、2016年12月19日に、2016年度については当該MNEによるCbCRの自主提出を受け入れる旨を発表しています。CbCRの自主提出に関するさらに詳細な情報は2017年3月末までに公表されると予想されています。2016年10月27日付、Japan tax alert「シンガポールが2017年国別報告書に係るガイドライン(e-Tax Guide)を公表」をご参考までにご覧ください。
  2. IRASは、2017年移転価格ガイドラインのパラグラフ8.13に記載された条件に基づき、情報交換が行われるとしていますが、当該条件は自動的な情報交換を可能にするものではありません。この条件により、情報交換を促すことになるかもしれませんが、この条件が強制的で自発的な情報交換の条件を満たすものではありません。自動的な情報交換を可能にするために、IRASが、CbCRの自動的交換のための多国間権限のある当局合意(MCAA)に類似した多国間協定を締結するかどうかは現時点では明らかになっておりません。なお、シンガポールは、現時点ではMCAAにも参加はしていません。
  3. 指針とするスプレッドは、IRASのホームページ内で公表され、毎年始めに更新されます。

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