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税務弘報 2017年9月号
BEPS対応における日系企業の課題

移転価格部 シニアアドバイザー 高原 宏

2015年10月に発表されたBEPSプロジェクトの最終報告以来、各国でルールの改訂が進められている。 本稿では、納税者の目線からみたBEPS対応における日系企業の課題について、個人的な意見をまとめた。

1. 税制の一貫性(Coherence)向上への期待

BEPSプロジェクトは、一部の多国籍企業が国間の税制の隙間・不整合をつかって無税・低税率国へ所得を移転させ節税することの防止を目的に、OECD主導でスタートした。 このため各国税制の一貫性を高め、税制の隙間をなくす国際課税ルールの見直しが主眼であり、その中心に所得の国別配分ルールである移転価格税制(行動8-10)を置いている。

これは、納税者としても非常に歓迎すべき方向性だと思われる。 というのも、私は2006年に日本最大(更正所得1、220億円、追徴税額570億円)の移転価格更正を受け、足掛け7年のプロセスを経て最終的に国税不服審判所で全面解決した経験がある。 この解決プロセス中に国間の税制の違いを痛感する出来事があった。

不服審査に先立ち、日米当局間の相互協議を申請したところ、思いがけず相互協議不成立の通知を受け取った。 その取引は、米国ジョイントベンチャー(50%:50%)への輸出取引だったが、不成立の理由は、日本側では50%持分子会社は国外関 連者として移転価格税制の対象に入るが、一方米国側では、ジョイントベンチャーのパートナー(武田とA社)間で価格交渉されているので、輸出価格は第三者価格 (アームスレングス)であり、同税制の対象外とされたことだった。 つまり、日米における税務ルールの隙間(ギャップ)に運悪くはまったのである。 納税者からみれば、移転価格税制は国間の利益配分であり、本来、決定権のある当事者は国である。 さらにアームスレングスの算定方式や参照する第三者価格次第で裁量の余地のある税制である上に、判断基準となるルールに国間でギャップま であると、このリスクは納税者の努力で防ぐことは困難であると思い、事前確認制度(APA)での予防を徹底することにした。

しかし、最終報告書では国外関連者の範囲統一への言及はなく、また、先進国と新興国とでマーケットプレミアム等での立場の違いもあり、移転価格に関する「行動8-10」は、ミニマムス タンダード(順守を要請)を外れ「順守を推奨」する項目と位置づけられている。

国別報告書(以下、「CbCR」という)等により透明性は向上した反面、税務当局側の課税執行に関する一貫性の向上は道半ばといわざるを得ない。 納税者としては財務会計におけるIFRSのようなグローバル標準ルールが理想であるが、少なくとも一貫性は不可欠である。

また、金銭贈与等の典型的寄附金を除く日本の税制特有の国外関連者寄附金は、アームスレングスとの価格差を寄附金認定し、相互協議による二重課税解消プロセスから外す税慣行であ り、国際的に例をみず、再検討を要すると思う。

2. BEPS対応における日系企業の課題

今年5月の日本CFO協会の調査では、この時点で170社のうち未着手が21%、不要と考えるが12%と約3分の1の企業が対応していない。

税務、特に移転価格更正リスクは粉飾決算と並び経理・財務責任者(以下、「CFO」という) の責任を問われる最大の財務リスクであり、税務当局の国際会議等においても、税務に関するコーポレートガバナンスの充実の必要性が議論されている。 私が考えているBEPS対応は、次の3つのステップである。

第1ステップ: CbCR等の文書化資料の作成・提出

第2ステップ: 上記で開示される国別所得配分の更正リスク評価と予防措置

第3ステップ: 新興国等での税務更正リスク増加に備えた日本本社の体制強化

第1ステップは、売上高1,000億円以上の多国籍企業において義務化され、順守を怠ればペナルティが課され、一方的推定課税のリスクもあるため、いうまでもなく必須である。

第2と第3ステップは、海外展開の規模、現地法人所在国の税務当局のスタンス等と財務的許容度を勘案し、どこまで行うかはCFOの判断である。

第2、第3ステップに関連し、日系企業の本社税務人員数は、売上高1兆円規模の企業でも63%が10人未満と、欧米企業に比べ1桁違いであるので、予防措置の重点化が必要だと思う。

また、新興国等で税務更正が増える理由は、前述の一貫性の課題に加え、少なくともあと2つ挙げられる。 1つ目はCbCR等で国別の所得配分が一目瞭然となるので、現地当局から国間配分の違いの説明が求められることである。 2つ目は、移転価格税制特有の超過利益の配分を得られる無形資産の概念を広げた点である。

従来から移転価格税制での無形資産の概念は、費用化した自己創設無形資産を含んでいたため、財務会計よりも範囲が広かったが、 「独立当事者間で対価が支払われるもの」として、有償のものは何でも含めることになった。現地税務当局は、特許権等の具体的無形資産を保有していなくても現地法人による保有を主張し、 更正しやすくなる。また、国境を越える組織再編・立地替えに際し、同じ理由で事業の譲渡益の計上を求められる可能性が高くなる。

今年6月にBEPS(行動15)の一環として二重課税の早期解決に向け、相互協議開始から2年経過後での強制的・拘束的仲裁条項を含む多国間租税条約が67か国・地域で締結された。 しかし、当該仲裁条項には多くの新興国は参加せず、25か国・地域だけのスタートとなるため、当面、新興国二重課税の解消プロセスは充分には機能しないと考えられる。

3. まとめ

CFOは、本社税務部門の拡充・グループ内の情報共有等の強化に加え、税務当局に対し連携して次の改善を促していく必要があると思う。

  1. 相互協議の申立てができない又は成立が見込めない取引は、第三者間取引として扱う。
  2. 相手国にかかわらず、相互協議の申立てがあれば迅速に対 応し二重課税の解消を図る。
  3. 税制の一貫性向上は道半ば、国外関連者寄附金ルールの扱 いを含め、改善を期待する。
本稿が何らかのご参考になれば幸いである。


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