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国際税務 2017年9月5日号:
新連載 ポストBEPS時代の移転価格調査<1>

移転価格部 竹内 茂樹

連載に当たって
世界のBEPSへの取り組みにより、今各国では、移転価格ドキュメンテーションが最盛期を迎えています。 では、この後どのような時代がやってくるのか、本連載では、EY TP Controversy Teamのメンバーとして日々移転価格調査、相互協議、事前確認審査に対応してきている経験を基に、その次の時代を占っていければと思います。 第1回は移転価格調査です。次回以降も、親会社・子会社両者の目線から、コントロバーシーの実務や論点について触れていきたいと思います。 ポストBEPS時代は、これまで移転価格問題に関係が薄かった方々も関心を持たざるを得ないことから、専門家でなくとも容易に理解しやすいスタイルで書いていければと思っています。

BEPSへの取り組み - その意味するところ

G7やG20をはじめとした各国のBEPS‐Action13への取り組みの本質は、「課税対象所得の歪んだ配分の防止」とそのための「企業グループ活動に対する情報収集システムの構築」であり、情報収集ネットワークを構築することによって、申告水準向上に向け企業を牽制することです。 この牽制システムは税務調査の実施によって担保されていることは明白ですし、このことが移転価格調査の枠組みに大きな質的変化をもたらすことも明らかです。

企業グループ情報の提供拡大(深度ある情報)

情報のBEPS対応税制導入後、何がこれまでと異なるかというと、一定規模以上の企業グループについては、各国税務当局がこれまで以上にグローバルな移転価格関連情報を事前・広範に保有できることになったというこということです。 まず、一定の基準に達した場合には、親会社で毎年、作成・提出したグローバルな各国数値情報を含む国別報告書(CbCR)そのものが、租税条約上の自動的情報交換システムを経由して、子会社所在国の各税務当局に毎年提供されます。 そして、グローバルなサプライチェーンや、無形資産、そして金融を含んだ移転価格ポリシー等が記載された事業概況報告事項(マスターファイル)については、各拠点の所在地国の法令で作成・提供が求められることになります。

また、マスターファイル、ローカルファイルについては、親会社所在地国又は進出先国の法令で作成・提出等が義務付けられていなかったとしても、他方の国で義務付けが行われている場合、税務当局は任意で提出を求めてくることは当然に予想されますし、仮に求めに応じなかったとしても、二国間の租税条約に基づく情報交換ネットワークに載って交換が行われることは十分に考えられます。

移転価格調査の質的変化(調査の他国への波及リスク)

上記のように、各国の税務当局はこれまで以上に、事前・広範に移転価格関連情報を入手することができるようになり、調査対象企業の選定の精度も向上していることから、調査対象となった場合には、従来以上に厳しい対応を迫られるケースが多くなると予想できます。

Chart1

特に、子会社所在国の税務当局による移転価格調査については、かなり大きな質的転換が起きるのではないかと考えています。 これは外国に拠点をおく日系子会社や日本に拠点をおく外資系子会社に対する税務調査の両方いずれにもいえます。 上記で述べたようなBEPS対応税制導入により、子会社所在国の税務当局はこれまでに得られなかったような質的内容の情報を手にすることができるようになりました。 ポストBEPS時代にあっては、各国税務当局は、親会社の機能・リスクについてより詳細な情報を得ることができると同時に、横並びで、自国所在の子会社と他国所在の子会社の利益水準や一人当たり利益水準等を分析して、自国所在の子会社の課税に役立てることが容易になりました。 移転価格問題の本質が親子会社間の所得の配分であることに鑑みれば、垂直的(親子会社間)及び水平的(子会社間)な機能・リスク配分情報は外国税務当局にとってとても強力な武器となるはずです。

したがって、子会社進出先での税務調査に対する親会社による管理の重要性がこれまで以上に高まると考えています。 特に日系企業の皆様は、これまで対応は主に現地子会社の判断に任せるということが傾向として強かったように思えますが、それも限界がきているのではないでしょうか。 子会社所在国における外国税務当局からの資料提供依頼に対し、日本の親会社で準備しなければならないものも増えるでしょうし、何より、グローバルな移転価格ポリシーの中で、調査対象となっている海外子会社との取引を位置づけた上で、質問に対してどう回答していくのがいいかの判断が求められることになります。 また、その国での税務調査の結果は、当該子会社の翌年以降の利益水準の実績値に影響を与えていきますので、CbCRでの実績値の報告等を通じ、他国拠点に対する税務調査にも波及等の影響を与えていきます。 そういった意味で、今後、親会社は、世界の各地で発現した具体的な税務リスクを現地任せにせず、日本本社で早期に把握するとともに、親会社主導で、他国税務調査への影響も視野に入れた上での対応策を打っていく必要があると考えられます。 親会社の財務・税務部門の強化が求められます。


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